22-4.セレブさん


「でも、ちょっと意外っていうか……」


 優花さんが振り返った。


「なにが?」


「いや、浅羽先輩がダンジョンなんて、ちょっと……」


「似合ってないかな?」


「ま、まあ、はい」


 彼女はくすくすと笑った。


「他のひとには言ってないんだけどね。ほら、未成年でダンジョンっていうと、あまりいい顔されないし」


「まあ、そうですよね」


「だから内緒ね?」


 そう言って、唇に人差し指をあてる。

 その仕草が可愛すぎて、おれはつい視線を逸らした。


「そういえば、青ぽ……、青井くんは、今日はどうしたの?」


「え? なにがですか?」


「ほら、部活。雅人は今日、練習だって言ってたけど」


「あ……」


 しまった。


「え、えーっと。ちょっと、体調が悪くて早退を……」


「あれ。元気に見えるけど」


「さ、さっきまで悪かったんです! ほ、ほんとですよ!」


「えー?」


 彼女は下から覗くように見上げてくる。


「もしかして、サボりかな?」


「うっ」


「アハハ。冗談だって。別に雅人に言ったりしないからさ」


 そう言って、そっと目を伏せた。


「誰だって、いやになるときはあるよね」


「……先輩?」


「ううん。なんでもない。……あ、そこの分かれ道は右ね」


 いくつかの空洞を通って、おれたちは奥へ進んでいった。

 途中、何組もの参加者たちとすれ違う。


「いやあ、今回も楽しかったなあ」


「あのモンスターって、いつもは……」


 それを見ながら、ふと疑問を口にした。


「浅羽先輩。さっきからその、モンスターってのに会わないですよね」


 もっとわんさか出てくると思って、身構えてたんだけど。

 いや、他のひとたちは遭遇してるみたいだから、倒したあとなのかな?


「あぁ、それね。さっきからモンスターのいる場所は迂回してるから」


「え。わかるんですか?」


「わたし、危険探知のウルト持ってるの」


「う、ウルト?」


「あー。ゲームで言う、ユニークスキルみたいなものだよ。青井くんにも、なにかあるかもね」


「へえ……」


 そんなのもあるんだな。

 ダンジョンってよくわかんねえや。


 あれ?


「……もしかして、おれに気づいたのって」


「さあ。どうかな」


 おれの疑問を煙に巻くと、優花さんはある場所を指さした。


「見つけた。これだよ」


 地面に石が埋まっていた。

 それを掘り起こすと、


「これをバッグ一杯になるまで詰めて」


「これ、なんですか?」


「モンスターハントの武器をつくるために必要な砥石になるんだよ。この土属性のダンジョンでしか採れないの」


「へえ」


「ちなみに、ぜんぶ換金すると五万円くらいかな」


「そんなに!?」


 おれが大声を上げると、彼女は首を振った。


「でも、ここに入るのに二人で二万くらい払ってるからね。そのほかの雑費とか引いて、手元に残るのは二万円だけだよ」


「そ、それでも大金ですよ……」


 あれ、ということは……。


「……おれの入場料、払ってくれたんですか?」


「当たり前だよ。わたしが連れてきたんだからね」


「す、すみません! あとで、えっと……」


 とは言うが、そんな金なんて持ってない。


「いいよ。手伝ってもらうんだから、そのくらい当たり前だって」


「が、がんばります」


「うん、よろしい」


 彼女の笑顔を見ているのが恥ずかしくて、おれは慌ててその石を掘るのに集中した。

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