36-完.出揃いました


 カタカタ。

 カタン。


「……マジかよ」


 おれはノートパソコンを閉じた。


「どうしたのかえ」


「いや、ちょっとな……」


 おれは携帯を手に取った。

 寧々へ電話をするが、すぐに留守電に変わる。


「……まあ、あんだけ飲んでりゃな」


 美雪ちゃんも眠子も出ない。

 あいつらは朝から敗者復活戦だし、もう寝ちゃったんだろう。


 ……明日、はやく起きて知らせるしかないな。


「ふあああああ」


 大きな欠伸が出た。

 そろそろ寝たいんだけど、トワがずっとテレビ見てるからなあ。


「おまえ、まだ寝ないの?」


「なんじゃ。おまえさん、もう眠いのかえ」


「そりゃそうだろ」


「なんじゃ。夜はまだまだこれからじゃぞ」


 なんか、つい最近、同じような展開があったような。


「言っとくけど、徹夜でババ抜きとかダメだからなー」


「むう。つまらんやつじゃのう」


「それに、姫乃さんだってもう寝てるだろう。おまえもさっさと寝ろよ」


 彼女はお風呂に入って、さっさと自分用の布団で寝てしまった。

 トワもそっちにいっしょに寝かしてもらう予定だったけど、どうするかなあ。


「む。なるほど。それは気がつかんかったわ」


「なにが?」


 するとビシッと、右手を卑猥な形にする。


「あれじゃろ! 安心せい、わしは異界人のまぐわう姿などなんとも思わんからな! 気にせず夜這うといい!」


「ふざけんなさっさと寝ろ」


「なんじゃ。若い男女が同じ屋根の下におって情けないのう」


「おれらはそういう変な趣味はありません。ていうか、若いやつって、おまえのほうが年下だろ」


「は?」


「え?」


 一瞬、変な静寂が包み……。


「あ、あー。そうじゃった、そうじゃった。おまえさんたちの目には、わしはそういう感じに見えとるのじゃったなあ」


「おい待て。なんかすげえ気になること言ったな」


「よいよい。世界には知らんほうがよいことがたくさんあるでな。なんといったか、知らぬが閻魔?」


「わざと言ってるだろ」


 ……まあ、いいや。

 こいつにまともに付き合うと、なんかこっちが損する気がする。


「……でもさ、実際、なにしに来たの?」


「わしか?」


「そりゃ、おまえだけだろ」


「そんなこと、どうでもよかろう」


「いや、強引にパーティ組まされて、こうやって寝床も提供してるんだ。少しは教えてくれていいだろ?」


「ふうむ。しょうがないのう」


 よっこいしょ、とこっちに近づいてくる。

 そっと内緒話をするように、口を耳に近づけてきた。


「実はのう……」


 ――ふっ。


 ふと、耳に息を吹きかけられた。


 ――くらり。


「あ、おま……」


「くふふ。安心せい。ちょっと眠くなるだけじゃ」


「……くそう」


 ばたんきゅー。

 おれは抗えない睡魔に襲われて、眠ってしまった。



 …………

 ……

 …



「祐介くん!」


 ハッ。


 おれは飛び起きた。

 姫乃さんが寝ぐせでびよんびよんになった髪をかきながら、携帯を見ている。


「やばいわよ、もうこんな時間!」


「え、あ、……あっ!」


 見ると、すでに寧々たちの試合が始まる時間だった。

 トワはおれのベッドの脇で、幸せそうな寝顔を浮かべている。


「おい、トワ! 起きろ!」


「むにゃむにゃ。やめい、わしはそんな軽い女ではないわい」


「アホなこと言ってるなよ! はやく起きないと遅刻!」


「……むう」


 しょぼしょぼと目をこすっている。


「なんじゃ、騒がしいのう」


「おまえ、目覚ましかけなかったの!?」


「なんじゃそれは?」


「あー、もういい!」


 おれは寧々の携帯に電話をかけた。

 美雪ちゃんからの着信はあったけど、マナーモードで気づかなかった。


 ……出ない。

 すでにダンジョンに入っているのだろう。


「祐介くん! はやく準備しなきゃ!」


 姫乃さんが化粧道具を持って、バタバタと洗面台に飛び込む。


「そ、そうですね! ほら、トワもはやく!」


「いやじゃー。わし寝てたーい」


「だから早く寝ろって言っただろ!」


 おれたちはアパートを飛び出すと、急いでトーナメント会場に向かった。


「…………」


 しくじった。

 もし、あいつらがその気だったら。


 寧々たちは……。


「……なんか怖い顔して、どうしたの?」


「いえ、実は……」


 おれは昨日、パソコンで調べたことを言った。


「……え、それって本当なの?」


 おれはうなずいた。



 …………

 ……

 …



 やがてトーナメント会場にたどり着いた。


「ワオ! マキノ、遅かったね!」


「ピーター、寧々たちは!?」


 するとピーターは、小さく首を振った。


「……やっぱりか」


 昨日、寝る前に気になって調べたこと。

 それは雪村牡丹・紫苑の双子ハンターの経歴。




 ――プロハンター試験合格、日本人最年少記録保持者。




 会場が、歓声に沸いていた。



『チーム【ザ・利根!】、300ポイント獲得で、決勝進出です!』



 姫乃さんが、信じられないという顔でつぶやく。


「そんな、寧々さんたちが……」


 いや、問題はそこじゃない。

 おれはポイントの一覧に目を向けた。


 【小池屋】――0

 【starGuardian】――0

 【ウンゴロ同盟】――0


 この試合……。


 ――利根の完封だ。

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