39-2.若者こわい


 ――その一週間後。


「……え、おれと笹森さんで?」


 課長から回された新しい案件。

 その対応を、なぜかおれと笹森さんで組むことになったのだ。


「ああ。牧野くんは、こちらの会社の案件を担当したことがあるだろう。だから、今回は笹森くんの指導という形で取り組んでもらう」


「で、でも、笹森さんは相沢さんと組んでいたはずでは……」


「ああ、それが……」


 ちら、と向こうの席に座る猫背の男性社員を見る。

 彼は目が合うと、気まずそうに顔を逸らした。


「相沢くんには、少し別の案件に回ってもらうことになった。だから、よろしく頼む」


「は、はあ」


 ……なるほどね。

 まあ笹森さん。優秀なんだけど、口が悪いかならなあ。

 正直、合わないって声もよく聞くし。


「……まあ、よろしくね」


 じろっと睨まれる。


「……よろしくお願いします」


 うわあ、ほんと嫌そうなこと。


 まあ、そりゃそうか。

 見下している相手の指導を受けるとか、プライド高い彼女には耐えられないだろうな。


 でも、それでもやらなければいけないのが仕事だ。


 ……やれやれ。

 面倒なことにならなければいいけど。



 …………

 ……

 …



 まず担当者との顔合わせ。


「牧野さん。お久しぶりです」


「お世話になります」


 前の案件で担当だった渡辺さん。

 かなり顔の利くおじさんなんだけど、気難しくて有名なんだよな。


「今回は、黒木さんは?」


「ああ、申し訳ございません。黒木は他の案件のほうに回っておりまして」


「ほう。それは惜しい。あれほどの女性、なかなかお目にかかれませんからなあ」


 そう言って、胸元のあたりで大きな山をつくってみせる。

 このひと、相変わらずだなあ。


「あはは……。今回は、こちらの笹森が担当します」


 笹森ちゃんが前に出る。


「笹森です。よろしくお願いいたします」


「見ない顔だね?」


「本年度より、こちらの支社にお世話になっております」


「いくつだい」


「今年で二年めで……」


 話している間、応接室を見回す。

 前回は二年くらい前、主任といっしょに来たっけなあ。


 打ち合わせを終えると、おれたちは取引先をあとにした。

 その間、ずーっと無言である。


「…………」


「…………」


 駅前で、ふと笹森ちゃんがつぶやいた。


「さっきのひと、最低ですね」


「え?」


 それ、渡辺さんのこと?


「初対面でいきなり歳を聞いてきたり、他にもセクハラまがいのこと言ったり……」


「あ、あー……」


 そこは年代が違うんだし、いまの若者とはちょっと感覚が合わないよなあ。


「今回の企画、黒木主任でなくてよかったと思います。あのひとが、あんな男性に視姦されるなんて許せません」


 視姦て。


「ま、まあ、これからいっしょに仕事していくんだし、そんなに悪いように見なくても……」


「あなたもですよ」


「え?」


 笹森ちゃんが、じっと睨んでいた。


「今回は、業務命令であなたの指導を受けます。でも、勘違いして馴れ馴れしくしないでくださいね」


「……は、はーい」


 うーん。


 ……おれ、この子とやっていけんのかなあ。

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