主任、日常編に戻りますよ
39-1.ちゃんささ
あー、疲れたあ。
今日も新規はゼロか。
まあ、この時期はしょうがないよなあ。
おれがオフィスに戻ろうとすると、うしろからひとの気配が……。
「牧野さん!」
その鋭い声に、反射的にびくっとしてしまう。
「あ。お、お疲れさま」
すると目の前に立つ女性社員――後輩の笹森ちゃんがじろっと睨んできた。
「昨日のミーティングの報告書のほう、進捗いかがですか」
「え。あ、あれね。まだ途中で……」
「まだって、もう丸一日経ってますよ!?」
ぐわっと、彼女が鬼の表情になる。
「部内での共有がなければ、問題が起こるかもしれません!」
「そ、そうだけど、それほど重要なやつでは……」
言っちゃ悪いけど、あんな小さな案件の報告書など課長も待っては……。
「そんな心構えで仕事に臨まれては迷惑なんです!」
ビシッと言われてしまう。
「そんなことで、黒木主任の補佐が務まるのですか!」
「いや、その……」
いかんせん、あっちが正論ではある。
でも、一度にできる仕事は限られているのだ。
おれのような凡人は、自分のペースで仕事をするのが一番なのだ。
「とにかく、今日中にお願いしますね!」
「わ、わかったよ」
笹森ちゃんはやっとおれを解放すると、会議室のほうへと向かって行ってしまった。
「……ハア。参ったな」
これから、別の案件の資料をまとめようと思ってたんだけど。
これは今日も残業コースかなあ。
すると岸本が、にやにや笑いながらやってきた。
「いやあ、今日も苛烈だねえ」
……こいつ、向こうで見てたな。
「ほんと、勘弁してほしい」
「いいじゃないの。あんな可愛い子に罵られるとか、金を払ってでもやりたいやつもいるぞ」
「いや、おれはノーマルだから……」
もしかして、こいつの趣味とかじゃないよな。
「でもさ、どうして笹森ちゃん。おまえのこと目の敵にしてるわけ?」
「え? あー……」
おれは半年前、彼女が本社からやってきたときのことを思い出した。
「……なんか、主任のファンなんだってさ」
「なるほどねえ」
岸本が苦笑した。
「そりゃ、おまえは目の敵にされるだろうなあ」
「おまえだって主任の部下なのにな」
「おれは目立たず、そこそこがモットーだからな」
「おれだってそうだよ」
「いや、おまえは目立たないっていうか、単にできないだけじゃね」
「うぐ……」
なにも言い返せねえ。
「ま、今日はおごってやるからさ。さっさと終わらせて飲み行こうぜ」
「……とか言って、また合コンの愚痴を言いたいだけだろ」
「あ、わかる?」
わからないでか。
「……まあ、そんなに接点はないし、いいんだけどさ」
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