39-7.久々のワードいきます
「……さて、こんなところかな」
おれは課長から預かった企画の報告書をまとめ終わった。
楽な仕事だと思ってたけど、けっこうかかったな。
ていうかこれ、面倒なとこ押しつけられただけじゃね?
「あれ。そういえば、笹森さんのほうは……」
あれから二週間。
週明けから作業員を入れる予定だっけ。
何日か一回に、様子を見には行っていた。
わからないところもない様子だったし、向こうもそろそろ終わって……。
「牧野!!」
突然、主任がおれを呼んだ。
おれは慌ててデスクに向かった。
「は、はい!」
そこには、笹森ちゃんも立っていた。
「ど、どうしましたか?」
「…………」
主任が、じろりと睨みつけてくる。
「あんた。笹森の指導、どうなってるの?」
「え?」
いや、そんなの……。
「えっと、企画は順調で、週明けには作業員を……」
――バンッ!!
シーンと、オフィスが静まり返った。
主任がマジギレしている。
これは、いったい、どういうことだ。
「さ、笹森さん。どういうこと?」
「え、えっと……」
彼女が言いよどむと、主任が何枚かの書類を差し出した。
「この契約書!」
「え?」
それには、うちの会社の責任者と、現場監督の渡辺さん、人材派遣の会社、そして資材発注のための会社のサインと捺印が――。
――ない。
うちの社長と人材派遣の会社はあるけど、残りの二つがない。
というか、どうして渡辺さんのほうも……?
「これは、どういうこと?」
笹森ちゃんが、その目を真っ赤にして震えていた。
「わ、わちゃ、わたし、今回の企画の進め方、わからなくて、それで、契約書の作成、忘れてて、ぎりぎりに……」
なっ!?
「だから、わからないことがあったら聞けって言っただろ!」
途端、主任が胸ぐらを掴んできた。
「牧野、八つ当たりはやめなさい! あんたの監督不行き届きでしょう!」
「で、でも……」
……いや、その通りだ。
確かに考えればわかることだ。
初めてのパターンの案件に、彼女ひとりで進められるわけがない。
……プライドの高い彼女が、素直に質問に来られるわけもない。
おれからさりげなく、聞き出すべきだったのだ。
これはまずい。
資材の準備はできているだろうが、現場監督の渡辺さんのサインがないとなると。
このままじゃ、工事自体が中止になる。
「すみませんでした。でも、まだ間に合うんじゃ……」
作業の開始は、週明けだ。
まだ今日、契約書さえ持参すれば――。
しかし、主任が首を振る。
「いいえ。さっき連絡したら、渡辺さんはたいそう、ご立腹のようだったわ」
「え、それって……」
「今回の仕事は、なかったことに、とのことよ」
そ、そんな……!
「お、おれ、確認します!」
慌てて机に走り、電話をかける。
――くそ、やっちまった。
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