39-6.このとき、おれはそう思っていた


「牧野くん。あの企画の調子はどうだい」


「あ、課長」


 進行状況を思い浮かべる。


「笹森さん主体なので、おれはそれほど……」


「大丈夫なのかい」


「ええ。まあ、その点に関しては問題ないと思います」


 先週に渡した資料もばっちりだし、打ち合わせもほとんど任せてオッケー状態。


「なんなら、おれよりしっかりしてるんじゃないですかねえ。アハハ」


「ふむ。それもそうか」


 おいおいスルーされたよ。

 そんなことないだろ、とかフォローしてくれるところじゃないの?


「じゃあ、こっちの案件も頼めるかな」


「え?」


 渡された書類に目を通す。


「マジですか? これ、課長がやってたやつですよね?」


「まあ、ちょっと忙しくてね」


「おれでいいんですか?」


「まあ、きみならうまくやってくれるだろう。任せるよ」


「ありがとうございます!」


 おれはさっそく、その書類にかかった。


「……っと、その前に」


 立ち上がって、笹森ちゃんの机に向かう。


「笹森さん」


 どきーっと、彼女が飛び上がる。


「な、なな、なんですか!」


「え。あ、いや、企画の進捗をね」


「あ、そ、そうですか。わかりました。こちらです」


 なにをそんなに慌ててるんだろうか。


「現在の進捗としては、渡辺さんからいただいた資料をもとに……」


「あー。すごいねえ」


 まさかここまでやれてるとはね。

 やっぱり次世代の主任として送り込まれただけはあるなあ。


「ここまでやれるなら、文句はないよ。正直、おれよりぜんぜんいいと思う」


「と、当然です。そんなにおだてても、なにも出ませんよ」


「いやいや、そんなつもりじゃ……」


 ていうか、これ……。


「これなら、おれが見てなくても大丈夫だね?」


「え?」


 笹森ちゃんが振り返った。


「ど、どういうことですか?」


「さっき課長から、別の案件を回されてさ。ちょっと、そっちにかかりきりになっちゃいそうなんだ」


「あ、そ、そう、ですか……」


 なぜか声のトーンが下がっていく。


「とは言っても、定期的に見に来るから。わからないところあったら聞くし。やれる?」


 笹森ちゃんは、こくりとうなずいた。


「わかりました。わたしで進めておきます」


 いやあ、後輩が優秀で助かるよなあ。

 なんか情けないような気もするけど、それはそれ、これはこれ。


 まあ、おれがいないほうが、彼女ものびのびやれるだろうし。


 さて、こっちの企画をやっちゃいますかー。

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