27-2.アレだよ、アレ


 エレメンタルのフロアに降りたとき、ふと姫乃さんが言った。


「それで、その鑑定っていうのはどうすればいいの?」


 その言葉に、佐藤さんが反応する。


「そんなことも知らなくて、よく源氏さんのクエスト受けられますよねえ」


 ――バチバチバチイッ!


 お願いですから抑えてください。


「えーっと。鑑定スキルを使うには、いくつか手順があります」


「そうなの?」


「まず対象の指定。魔力の放出。魔力の入力。そして解析。この四段階を経て、初めて鑑定が完了します」


「なにそれ、面倒ね」


「そうなんです。しかも、それぞれが別々の魔力操作を行うので、どれか一つでも苦手なものがあると鑑定スキルは使えません」


「別々の魔力操作って?」


「まず指定は魔力を身体の外で固定させる技術。

 そして放出は魔力を反響させる技術。

 入力は外の魔力を取り込む技術。

 最後に解析は、取り込んだ魔力の欠片から全体像を構築する技術。

 これらの手順をいかに素早く行えるかが、鑑定士としての実力に直結します」


「……あら。でもピーターさんのところの鑑定士の方、すごく簡単に鑑定スキルを使っていた印象があるんだけど」


「あの、主任。マイクさんは世界でも指折りの鑑定士ですよ。あのときにピーターのパーティが呼ばれたのは、あいつよりもマイクさんがメインですからね」


「そ、そうなの。ごめんなさい」


 まあ、あのひとは自分から前に出るタイプじゃないし、しょうがないんだけど。


「……マイクって、マイク・スチュワード?」


 佐藤さんがこちらに目を向けた。


「そ、そうだけど……」


「…………」


 なんだ?

 なにか変なこと言ったかな。


「牧野さんって、なんなんですか?」


「な、なにが?」


「源氏さんがクエスト頼むなんて、普通はないですよね」


「い、いや、ちょっと師匠が知り合いでさ」


「…………」


 疑わしげな視線を向けながらも、彼女はそっと顔を逸らした。


「……まあ、いいですけど」


 なんだろうな。

 いや、それよりもいまは蝶のほうを……。


「あ、あそこがエレメンタルの空洞です」


 おれは探知スキル『エコー』で中を確認する。


 ……あれ?


「どうしたの?」


「いや、その……」


 おれたちは中に足を踏み入れた。

 そして洞窟にへばりついた蝶を眺めていた。

 昨日と同じように、ゆらゆらと羽を揺らしている。


 おれと同じことを思ったのか、ハナが口元を引くつかせる。


「ていうかあー……」


「そうだなあ……」


 問題は、そうだ。

 その向こう側にも、同じように羽を揺らしている蝶がいる。


 まるで鏡に映したかのようだ。


 うーん。

 これは、アレだな。


 ……なんか増えてね?

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