主任、即席パーティでは協調性が命です

27-1.板挟み


 しーん。


 空気が重い。


 静かな洞窟に、おれたちの足音だけが響いていた。


 さっきから妙な沈黙を守っている女性陣に目を向ける。


「あ、あの、姫乃さん?」


 うしろを歩く姫乃さんに声をかける。


「……なに?」


「さ、寒くないですか?」


「なんで?」


 なんで、ときたか。


「いや、このダンジョン、初めてでしょ?」


「大丈夫よ」


「そ、そうですか……」


 冷たい。

 まさか今朝のこと、まだ怒っている?

 いや、なんかそういう感じじゃないんだよなあ。


 おれは隣を歩くハナを見る。


「お、おい。おまえ、体調はどうなの?」


「なにがあー?」


「ほら、酔っぱらってたろ」


「べつにぃー。普通っていうかあー。見ればわかるじゃん」


「そ、そう」


 なんでこいつまで、こう、妙に刺々しいわけ?

 今朝はなにもしてないだろ。


 そして最後に、前を歩く佐藤さんに声をかける。


「あの、佐藤さんもモンスターハントやってたんだね。しかもギルドリーダーとか、すごいじゃん」


「…………」


 彼女はそっと振り返ると、眉間にしわを寄せた。


「チッ」


 まさかの舌打ちである。

 そして、無言で前を向いてしまった。


 うわっほーい。

 なにこれ、マジで恐いんですけどー。


 と、そこで姫乃さんがぼやく。


「ハア。いまの新卒って、口の利き方も知らないのかしら。そりゃ、こんな小さい営業所でしか拾ってもらえないわよねえ」


「うっせえなあ。ひとの勝手だろうが。つーか、話しかけないでくれる? 加齢臭が移るからさ」


 ――バチイッ!


 見えない火花が散ったような気がした。


「祐介くん」


「な、なんですか?」


 にこり、と微笑む。


「やっちゃっていいわよね?」


「ダメです、剣をしまってください!」


 と、佐藤さんが立ち止まる。


「ほう。へえ。ギルドリーダーのわたしにここで喧嘩売ろうっての? いい度胸じゃないの。買ってやるよ」


「佐藤さんも抑えて!」


 なんて凶悪な笑みを浮かべるんだよ!


「ていうか、会社とキャラ違いすぎじゃない?」


「わたし、オンオフは分けるタイプなんで」


 オンオフというか、もう人格が違うんですけど!


「ねえー。くそ野郎」


 ハナが口を挟む。


「な、なんだ?」


「こいつ、なんのために呼んだわけえー?」


 ハナもこいつ呼ばわりだもんなあ。

 なんでこう、ここの女性陣って協調性がないわけ?


「えっと、鑑定士って聞いたんだけど」


「なにそれえー?」


「正体不明の道具とか、新種のモンスターの名称とかを探ることができるんだ。高レベルのハンターだと、モンスターの姿を見ただけで特性なんかも鑑定できるらしい。特殊スキルにポイントを振るから、あまり戦闘能力は高くはないんだけど……」


「へえー。そうなんだあー」


「そうそう。だから、今回は……」


「マジいらなくね?」


 ――バチバチイッ!


 三人の間に、でかい火花が散る。


 なんでこいつら、こんな攻撃的なんだよ!


 佐藤さんが、回れ右する。


「わたし帰るわ」


「待って! 待ってください!」


 慌ててハナの口をふさぐ。


「おまえ、ちょっと静かにしてろよ!」


「なんで?」


「昨日、おれたちがミスったから、来てもらったんだろうが!」


「わたしのせいじゃないしいー」


 いや、確かにそうなんだけどさ!


「ほんと頼むって。おまえだって源さんに養われてるんだろ?」


「……それ言うとかズルくねえー?」


「佐藤さんも、お願いします。おれたちだけだと、どうしても倒せなくて……」


 彼女はしばらく睨んでいたけど、やがて小さなため息をついた。


「……なんだかなあ」


 そう言って、彼女はさっさと奥のほうへと歩いて行ってしまった。

 姫乃さんたちも、無言でそれに続いていく。

 おれは最後尾を歩きながら、なんかもうすごい胃の痛みを感じていた。


 ……もうほんと、勘弁して。

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