18-2.マテリアル・フォレスト


「んでだよごらあ!」


「待て! おまえそれ人間の言葉じゃねえぞ!」


 おれはアレックスに突っかかっていく寧々を慌てて制した。


「おまえ、どういうことだよ!」


「どうもこうも、アレックスといっしょに潜る約束をしてたんだよ」


「だから、どうしてこの女がいるのかって聞いてんの!」


「それは……」


 ちらとアレックスを見るが、彼女はなにも言わずに首を振った。


「……まあ、それはいいだろ。それより、どうしておまえが主任と?」


「こいつが『KAWASHIMA』にいるとこに出くわしたんだよ。わたしも仕事に区切りついたし、まあいいかって」


「ふうん」


 なんだかんだ、このふたりって仲いいよな。


 じーっ。


 と、彼女がおれを見ていた。

 心なしか機嫌が悪そうだ。


「え、えっと、主任?」


「…………」


「あの、どうかしましたか?」


「……べええつにー」


 彼女はぷいっとそっぽを向くと、ぼそりとつぶやいた。


「わたしは誰かさんの尻ぬぐいで大忙しだったのに、元カノと週末デートとはいい御身分ねえ」


 グサアッ!


 このひと、やっぱり根に持ってる……!


「いや、あの、これには事情が……」


「へえ。事情? いい言葉よね。それで? 事情ってなに? あ、そうね。プライバシーだから言えないってことね。へええ。別にいいけどねえ」


 主任は寧々の腕を掴むと、ずんずんと廊下を歩いて行った。


「寧々さん、行きましょう!」


「え、あ、いや、こいつらほっといていいわけ?」


「いいんです! もう知らない。今度こそクビになればいいわ!」


 べーっと舌を出して更衣室へと消える。


「……ユースケ。まだあの女と組んでるの?」


「……まあ、そりゃな」


「ふうん」


 アレックスは感情の読めない表情でつぶやいた。


「……とにかく、おれたちも行こうか」



 …………

 ……

 …



 ダンジョン『マテリアル・フォレスト』。


 属性は『木』。

 森林型のダンジョン。

 オープンスタイルだが、その生い茂る木々のせいで視界は狭い。


 精霊種と呼ばれるモンスターが多く、他には小型の獣など。


 レジェンド・モンスターは『モノケロース』。

 しかしその姿を見たものは少なく、詳しい生息地も不明。


「……ここも久しぶりね」


「そうだな」


 あのころ、おれたちは毎日のようにこのダンジョンに来ていた。


 ちらほらと、ダンジョンの思い出に浸るハンターたちの姿があった。

 おれたちは目的もなく、ぶらりとそのダンジョンを歩いていく。


 主任たち、大丈夫かな。

 寧々がついてるから心配ないとは思うけど。


「……ねえ、聞いてるの?」


 ハッとして振り返ると、アレックスが拗ねたような顔で見ていた。


「えっと、なんだっけ?」


「この先に行きたい」


 そう言って、彼女はある方向を指さした。

 それはわかりづらいが、他のエリアとは違う魔素が漂っている。


 古びた立て看板があった。


『この先、レベル3エリアです』


「……そっちは」


 彼女はおれの手を握った。


「お願い。少しだけ」


「……わかった」


 おれたちはそのエリアへと踏み込んだ。


 ――それはかつて、アレックスの兄が消息を絶った場所だった。

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