15-2.大丈夫だ まだ間に合う


「GWはどっか行くの?」


「今年も家で寝てると思う。そっちは?」


「おれも彼女と別れちゃったからなあ。似たようなもん」


 連休前の整理をしながら岸本と話していると、ふと主任がこっちに歩いてきた。


「あら。まだ終わっていないの?」


「あ、黒木主任! えっと、これは……」


 慌てる岸本に、彼女はふわりと微笑みかける。


「いいのよ。それより、わたしも手伝いましょうか」


「え、いや、そんな……」


「気にしないの。連休までに終わらせないと、みんな休日出勤は嫌でしょ?」


「は、はい」


 主任はおれたちの書類を持っていくと、鬼のような速度で処理をしていった。


「え、なに。なんであんな優しいわけ? こんな書類とか、主任がやることじゃねえだろ」


「…………」


 おれはそれには黙っていた。


 やがて定時になってオフィスを出ると、ちょうど主任と鉢合わせた。


「…………」


「…………」


 ふたりでエレベーターに乗り込み、下の階のボタンを押す。


「…………」


「…………」


「ねえ」


「行きませんよ」


「まだなにも言ってないわよ!」


「わかりますよ。九州に行きたいって言うんでしょ」


「仕事だって終わったじゃない!」


「それとこれとは別です。ありがとうございました。お礼に『ベーカリーShino』のメロンパンおごりますんで」


「ねえ、どうしてよう。飛行機のチケットとか、わたしが払うから。ね?」


「わざわざ休日に旅行なんて行きたくないですよ」


「いいじゃない。どうせあんた、今年もコンビニのチルド麺を全制覇するくらいしか予定ないんでしょ?」


「な、なんで知ってんすか!?」


 だって、いざ連休とか言われてもやることなんてないだろ。

 出かけようにも、どこも馬鹿みたいに混むんだからさ。


「嫌なものは嫌です。悪いですけど、主任のわがままにぜんぶつき合うほど物好きではないんですよ」


「……っ!」


 ――チーン。


 ドアが開いた。


「あんたなんて、ひとり寂しいGWで干からびちゃえばいいのよ!」


 主任は叫ぶと、ヒールを鳴らしながら出て行ってしまった。

 外にいたひとたちが、驚いた顔で彼女とおれを交互に見ていた。


「……す、すみません」


 おれは平謝りしながら、慌てて出て行った。


 道路に出るが、すでに彼女の姿は遠かった。

 まあ、別に引きずるようなもんじゃないだろ。


 と、そのときだった。


 ――ピロリン。


 スマホの通知だった。

 例のハンター専用の情報アプリだ。


『現在、日本に在住するハンター各位。

 今年も例のモンスターを観測いたしました。

 貴重な資源を守るため、ご助力を願います。


 ――ザビエルの討伐、参加者急募。


 日時:五月三日・四日。

 報酬:マンドラゴラ・エキス』


「…………」


 ため息をつくと、おれは主任の背中を追って走り出した。

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