15-3.靴を投げるか棒を倒すか


「ザビエル?」


 主任が首をかしげる。


「いわゆるレイドボスです」


「なにそれ?」


「複数のパーティが合同でハントを行うモンスターのことですね」


 規格外に巨大だったり、無尽蔵の分裂スキルを持っていたり。

 とにかく一パーティ程度じゃ止められないモンスターのことだ。

 トワイライト・ドラゴンやグリフォンもこれにあたる。


「こいつは年に一回、この時期に九州のダンジョンに現れます。いつもはもう少しあとだから不参加でしたけど、今回は連休に重なったので……」


「ふうん?」


「……なんですか?」


「べつに?」


 にやにやした顔でおれの横顔を見てくる。


「……おれは報酬のマンドラゴラ・エキスが目的なだけです。主任のわがままにつき合ってやろうとか思ってるわけじゃないので、そこのところは勘違いしないでください」


「わたしはなにも言ってないけど?」


「…………」


 おれは咳をして誤魔化した。

 そこへ、機内のアナウンスが入る。


『当機は着陸態勢に入ります。シートベルトを……』



 …………

 ……

 …



 長崎県、佐世保。

 同県の代表的な観光都市であり、今回のハントの舞台でもある。


 おれたちは市電などを乗り換え、空港からそこにたどり着いた。

 電車から降りると、主任が大きく伸びをする。


「……はあ。けっこうかかったわね」


 時計を見る。

 午後の二時を回ったところだ。

 朝に向こうを出たから、六時間ほど移動していたことになる。


「そうですね」


「このあとは、どうするの?」


「ホテルへチェックインをして、それから……」


 ぐう。


「……主任?」


「知らない。わたし知らないわ」


「いや、そんな簡単にわかる嘘は……」


 ぐう。


「……お腹も空きましたし、お昼にしましょうか」


「そ、そうね。わたしのお腹の音じゃないけど、それがいいと思うわ」


「えーっと、ここらへんで有名なのは……」


 おれはたちは同時に言った。


「佐世保バーガー」


「レモンステーキ」


 ――ぴた。


「……いや主任、ここはハンバーガーにしましょう」


「いやよ、いやいや。わたしハンバーガー食べるの苦手なの。それよりもレモンステーキがいいと思うわ。前にテレビで見てから、一度、食べてみたかったのよね」


「おれ、酸っぱい系の肉は苦手なんですよ」


「……いいわ。それなら、公平に決めましょう」


 主任が財布から十円玉を取り出した。


「表ならハンバーガー。裏ならステーキよ」


「いいでしょう」


 主任がそれを放った。

 それを手の甲でキャッチ。


「あっ」


 ――したと思った瞬間、十円玉は弾かれて地面に落っこちた。

 うまい具合にころころと転がっていき、やがて溝にはまって縦のまま止まる。


「うわ、えぐいハマり方しましたね」


「ま、牧野! 取ってよ!」


「え。おれですか? ……あぁ、もう。しょうがないなあ」


 おれがそれをつまみ上げたとき、ちょうど目の前に一軒の店が。


『長崎ちゃんぽん・はまぐり亭』


 おれたちは顔を見合わせて――。


「……入りますか」


「……そうね」


 こうして、おれたちの昼食が決まった。

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