15-4.ちゃんと爽やかイケメン設定です


 おれたちは無事にホテルにチェックインを済ませた。

 ザビエルのハントは明日からだし、今日はこのまま自由行動にしようか。


「おれはこれから出ますけど、主任は適当に休んでてください。明日は朝が早いですよ」


「え。どこ行くのよ」


「ちょっと例のハンターに会ってきます。やっと連絡つきましたんで」


 まったく。ルーズなのは知ってるけど、一週間も遅れて返してくるとは。


「ま、待ちなさいよ。わたしも行くわ」


「え。でも主任、さっきもう休みたいって言ってましたよね」


「気が変わったのよ! すぐ準備するから待ってなさい」


 そう言って、ドタドタと部屋に入っていった。


「……まあ、いいけど」


 おれも準備をするために、部屋に入った。



 …………

 ……

 …



「それで、どんなひとなの?」


「えーっと。まあ、なんと言えばいいのか……」


 あいつをうまく形容するのは、うーむ。


「……天才肌、ですかね」


「なにそれ、すごそうね」


「まあ、すごいはすごいんですけど。たぶん想像しているすごいとは違いますよ」


「どういうこと?」


 と、そこで待ち合わせのコンビニにたどり着いた。


「……えーっと、もう来てるはずなんだけど」


「おーい、牧野さーん」


 その声に振り返ると、向こうからひとりの少年が走ってきた。


 お、あれは……。


「ガニマタ!」


「へーい。久しぶりー」


 やつが手を上げたので、それに合わせてタッチする。


「元気だったか?」


「もち!」


「いま高校生だっけ?」


「そうだよ。牧野さん、ハンター引退したんじゃなかったの?」


「まあ、ちょっと復帰してな」


 と、そいつが主任を見て目を丸くした。


「うお、牧野さんがまたマブい女のひと連れてる!」


「え?」


「ちょー好みなんだけど! ねえ、お姉さん、名前なんてーの!?」


「な、なにこの子、ぐいぐい来るんだけど……」


 主任が気圧されてあとずさる。

 おれはその様子に苦笑した。


「まあ、本気じゃないんで適当にあしらってください」


「牧野さん! それじゃ、おれがいつも女のひと口説いてるみたいじゃん!」


「いや、そうだろ」


 ガニマタが頬を膨らませた。


「失礼だなあ。おれはちゃんと相手は選ぶの。牧野さんみたいに手当たり次第にフラグ立てやしないっての」


「おまえな、変なこと言うんじゃねえよ」


 主任の訝しげな視線に、おれは慌てて咳をする。


「……紹介します。こいつはガニマタ。現役のころにダンジョンで知り合った子です」


「へ、へえ、そうなの。変わった名前なのね」


「……いや、ハンドルネームですよ」


「ハンドルネーム?」


「ほら、モンスター核が市場に出回るとき、討伐者の名前も出ますからね。やっぱり本名を知られたくないってハンターも多いですから」


「あ、なるほど」


 未成年のモンスターハントも禁止されているわけじゃない。

 でもまあ、いい顔はされないだろうからな。


 ちなみに、こいつの本名はおれも知らない。

 ハンドルネームを名乗るハンターには、本名を聞かないのがマナーだ。


「というわけで、お姉さんもガニマタって呼んでよ」


 そう言って、主任に手を差し出す。


「わたしは牧野の同僚よ。よろしく」


 そうして、手を握る。


 ――が。


「ど、どうしたの?」


 ガニマタが信じられないという様子で、固く握られた手を見つめている。


「……牧野さん。やべえよ」


「なにが?」


「このひとの肌、すっべすべ! なにこれ、おっぱいもこれなの!?」


 ぶーっ!


 おれは慌ててそいつを主任から引き離した。


「馬鹿、おまえ殺されるぞ!」


「えー。いいじゃん。牧野さんはもう触ったんだろー?」


「さ、触ってねえよ! ただの上司!」


「あ、そっか。牧野さんにはあのアメリカンボディーな彼女がいたんだっけ」


「彼女じゃないし、いまはパーティも組んでない!」


「えー。マジで? もったいねー」


 主任がうんざりしたように耳打ちしてきた。


「……なんか、おじさん臭い子ね」


「まあ、はい。思春期ですからね」


「……あんたもあんなこと考えてるわけ?」


「い、いや、おれはべつに……」


 ごにょごにょと言い淀みながら、会話を逸らそうと試みる。


「そ、そういえば、あいつはどうした?」


「あ、そうそう!」


 ガニマタがやっと思い出したという感じで手を叩いた。


「ちょっと姉ちゃん、今日、来れなくてさ! だから、おれが代わりに来たわけ」


「どうしたんだ?」


「いや、それがさあ」


 たはー、とそいつは笑いながら言った。


「姉ちゃん、二日前からダンジョンで行方不明なんだわ」


 …………。


 おれと主任が、目を剥いた。


「「はあ!?」」

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