15-5.迷子のお子さまは


 目的のハウステンボスにやってきた。

 言わずもがな、ヨーロッパをテーマにした国内最大級のテーマパークだ。


 ここにダンジョンが発生して三年。

 一般人でも気軽にダンジョンを楽しめる場所として、よくテレビでも紹介されている。

 おれたちはGWの人混みをかきわけ、そのダンジョン施設にたどり着いた。


「ようこそ、ダンジョン『ラビリンス・テンボス』へ!」


 スタッフの案内に従い、カウンターで手続きをする。


「モンスターハントのご経験は?」


「プロ免許持ちが一名います」


「かしこまりました。それでは、スタッフの案内はよろしいですね?」


「はい。大丈夫です」


 ホテルに戻るひまはなかったので、ここで装備をレンタルする。

 転移の間に入るために、おれたちは一時間ほど列に並んだ。


「そういえば、お姉さんの捜索隊は出してもらったの?」


「してないよ」


「え、どうして!?」


「だって、いつものことだしなあ」


「い、いつも?」


 主任が困惑した表情を向けてきた。


「……まあ、会ってみればわかりますよ」


 やがて順番が回ってきて、おれたちはダンジョンへと飛んだ。


「へえ、ここは閉鎖型ですね」


「あら。あんたも初めてなの?」


「えぇ。ここはおれが引退してから発生したダンジョンですからね」


 東京の『KAWASHIMA』と同じような風景だった。

 中には、初心者らしき一般人の姿もちらほら見える。


「これだけスタッフがいれば、一般人のハントでも安心ですね」


「そうね。でも、このひとたちってみんなプロなのかしら」


 と、ガニマタが答えた。


「ほとんどは違うらしいよ。でも、ここってレベル1のフロアしかないから、バイトでも引率できるんだって」


「レベル1?」


「ダンジョンの危険度を数字化したものです。レベル1は初心者でも潜れる最弱エリアですね」


 列に並んでいる間に調べたが、ここの属性は土。

 アント系やゴーレムを中心としたモンスターの生息するダンジョンだ。


 主任が、珍しそうに周囲を見回している。


「……でも、びっくりしたわ。こんなところにダンジョンがあるなんて」


「はい。長崎には二つのダンジョンがあって、なぜか佐世保に集中してるんですよ」


「へえ。明日のクエストもここなの?」


「いえ。それは別のほうです。そもそも、あっちはザビエル討伐のとき以外は入れませんから」


 そこでふと、ガニマタが言った。


「あ。そういえば、言わなきゃいけないことがあった」


「なんだ?」


「ここはレベル1なんだけど、一種類だけ厄介なモンスターがいるんだよね」


「厄介?」


「アントイーターっていう蟻地獄っぽいモンスターなんだけど、そいつが地面にトラップを仕掛けてるんだ。それに引っかかると、下のエリアまで落ちるんだよね」


 へえ。


「ということで主任、それらしいものを見つけたら……」


 振り返った瞬間だった。


 ――シュポンッ。


 主任の姿が忽然と消え、地面に小さな渦巻きが残っていた。


「……一応、聞いておくけど」


「……うん」


「そのアントイーターっていうのは、危ないやつ?」


「そいつ自体は弱いんだけど、はぐれて別のモンスターに襲われることがある」


「そっかー。どうして入る前に言わなかったんだ?」


「いやあ、ごめんごめん。おれもダンジョン、すげえ久しぶりだったから油断してた」


 あははは、と笑い合う。


 ――ドスッ!


 おれはその小さな渦巻きに剣の鞘を差し込んだ。


「なんだこれ、開かねえぞ!」


「あ、なんかそのトラップ、発動すると数時間は開かないよ」


「じゃあ、どうするんだよ!」


「うーん。おれたちが下のフロアに行って探すしかないかなあ」


「くそ、はやく行くぞ!」


 おれはガニマタの襟を掴むと、急いでフロアの奥へと向かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る