15-6.砂の白雪姫


「きゃああああああああああああああああああ」


 わたしは砂のトンネルを落ちて行った。

 やがて身体が宙に放り出され、そのまま尻もちをつく。


「痛った! ……うえ、口に砂が」


 ぺっぺ、と吐きだし、周囲を確認する。

 小さな空洞のようだった。

 ただし、出入り口はどこにもない。


 見上げると、さっき落ちてきたトンネルがあった。


「……ここ、どこかしら?」


 普通に考えて、さっきのひとつ下のフロアだろう。

 よろよろと立ち上がろうとしたとき、ふと足元にある黒い物体に気づいた。


「ぎゃあ! な、なにこれ!?」


 それは巨大な昆虫のモンスターだった。

 ずんぐりとした胴体に、先端に鋭い牙がある。


 そいつが、ぺちゃんこになって死んでいた。


 な、なにが……。


 そのとき突然、足元が揺れた。

 ぼこぼこと地面が盛り上がったと思うと、それは大きな雪だるまのような形になる。


 これは確か、ネットで見た……。


「ご、ゴーレム?」


 そいつの身体が震えた。

 側面がぼこりと盛り上がると、それはまるで腕のようにこちらに伸びてくる。


「……くっ!」


 剣を振り上げ、それに叩きつける。

 それは砕けると、どろどろと土に還っていった。


「や、やったの……?」


 その瞬間、背後に気配があった。

 振り返るのと同時に、数体のゴーレムがのしかかって来た。


「きゃああああああああああああああ! やめなさい、ちょ、やめ……!」


 剣を奪われ、土の中に取り込まれる。

 土がうねりながら、全身をなでまわしていった。


 な、なんか気持ち悪い……!


 ぎゅっと目をつむっていると、ふとその土が剥がれていった。


「……あら?」


 きょとんとしていると、さらに地面が盛り上がった。

 構えるが、そこから現れたのはあまりに予想外なものだった。


「……女の子?」


 そこには猫のように身体を丸めて眠る、亜麻色の髪の少女がいた。


 ど、どうしてこんなところに?


 触れようとしたとき、ふと彼女がびくりと震えた。

 むくっと身体を起こし、大きく伸びをする。


「ふああぁぁあ……」


 目をごしごしとすると、ぼんやりとこちらを見た。


「……誰?」


「いや、それはわたしの台詞なんだけど……」


 その子はぼんやりと、空洞を見上げた。


「……あー。そか。落ちたときに魔素マナが切れたんだった。今日、何日だろ」


 ぶつぶつと言いながら、彼女は両腕をこちらに伸ばしてくる。


「ん」


「え?」


「んー」


 その手に触れると、ぐいっと引っ張られた。

 彼女はわたしのうしろに回ると、背中に飛び乗る。


「さあ、れっつごー」


「…………」


 な、何者なのかしら。

 敵意があるというわけではなさそうだけど……。


「……というか、ここ出口ないんだけど」


「あるよ」


「え?」


「つくるから」


「え? え?」


 その子が指を回した。

 すると、壁がぼこりと左右に開いた。

 その向こうには、ダンジョンの通路がある。


「さ、帰ろう、帰ろう。わたし、なんか用事があったような気がするから急いでねー」


 そう言って、かくんと顔を肩に乗せる。


 くかー……。


「……ね、寝てる」


 わたしはその子をおぶり直すと、そろそろとダンジョンを進んでいった。

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