2-完.むしろここからが本番だ


 いやあ、いい切れ味だな。

 さすがはHOUNDの最新作。


 すでにブラッド・ウルフは息絶えて動かなくなってしまった。


「や、やった!」


「おめでとうございます」


「見た!? わたしもやればできるのよ!」


 ふっふーん、と嬉しそうに胸を張る。


「さあ、これでクエスト達成ね。戻るわよ」


「え。なに言ってるんですか?」


「え?」


 おれは狩猟ナイフを手に取った。


「これから解体作業ですよ」


「……はい?」


 おれはクエスト用紙の一部分を指さした。



 追加報酬:ブラッド・ウルフの各部位の提出により査定



 そうなのだ。

 スライムは溶けてモンスター核しか残らない。

 しかし大部分のモンスターは身体が残る。

 もちろん、それは現代では手に入らない希少な部位ばかりだ。


 つまり金になるということ。

 それをわざわざ、置いていく手はない。


 主任の顔から血の気が引いている。


「そ、そんなことしなくても、ね? 基本報酬だけでいいじゃない」


「なに言ってんですか。そもそもダンジョンに入るのに、ふたりで二万円も払ってるんですよ。ブラッド・ウルフ一匹で一万円の報酬。差し引き一万円の赤字です。武器の洗浄代金も必要なのに、そんなこと言ってられませんよ。ほら、はやくしないとモンスターが寄ってきちゃいます」


「え、あ、だって、あ……」


 そう、モンスターハントが日本で流行っていない二つめの理由。


 簡単に言うと、グロいのだ。

 基礎講習を受けに来る中には、モンスターが金貨になると本気で思っているひとも多い。


「最後までやるって、約束しましたよね」


 おれはにこりと笑いかけながら、もう一本の狩猟ナイフを握らせた。


「い、い、いやあ――――!」


 はいはい、叫んでないで腕を動かす。



 …………

 ……

 …



「はい。それでは基本報酬の一万円と、査定分の追加報酬一万五千円です」


 美雪ちゃんから差し出された二万五千円を受け取った。

 武器の洗浄・整備代金はふたりで四千円なので、今日は千円の儲けになる。


 まあ、最上層のモンスター・ハントはこんなものだ。

 本来なら、丸々一日でいくつかのクエストを同時に受けるんだけどね。


「じゃあ、主任。今日も上で飲みに……」


 振り返ると、ベンチでぐったりとしている。


「大丈夫ですか?」


「なんであんたは平気なのよー……」


「まあ、長いんで」


 こればかりは、モンスターハントをするうえで避けては通れないことだ。


「……主任、家で料理とかしなさそうですもんねえ」


「料理するひとでもいきなりはきついってばー……」


「まあ、でも最後までやりきるとは思いませんでした。見直しましたよ」


「うー……」


 恨みがましい目で睨まれる。

 と、そこへ美雪ちゃんがフォローを入れた。


「ほんと、すごいですよー。マキ兄なんて、最初は解体できなくてクエスト失敗ばかりだったもんね」


「ちょ、美雪ちゃん!?」


 そんなことをバラしたら……。


「へえー。ふうーん。ほおーう」


 案の定、主任の瞳に光が戻っている。

 なにか面白いおもちゃを手に入れたみたいに、おれをにやにやと見ていた。


「よし、じゃあ、今日もパーッと飲むわよ!」


「た、立ち直り早くないですか!」


「ほら、さっさとついてくる! あ、今日はあんたのおごりだからね」


「どうしてですか!」


「そりゃ、今日はわたしの手柄だもの。ふふふ。さあて、次が楽しみねえー」


 そう言って、さっさと階段を上って行ってしまった。


 ぼくが振り返ると、美雪ちゃんがくすくすと笑っていた。

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