2-6.再戦


 ブラッド・ウルフは狼型モンスターでも最弱だ。

 でも性格はしつこい。

 一度、逃がした獲物の前には必ず現れる。


「というわけで、次はこっちが罠を張ります」


「へえ。それで、あんたが倒すの?」


「は? なに言ってんですか」


「え……」


「主任がやるんですよ」


 主任の顔が固まった。


「そりゃそうでしょ。主任がやりたかったんでしょ」


「で、でもわたし、あんな素早いのなんて……」


「大丈夫ですよ。罠を張るって言ったじゃないですか」


 おれは鞄から六角形の板を取り出した。


「これは地雷です」


「えぇ!? そんなもの使って大丈夫なの?」


「いえ、閃光タイプなんで。さっきのおれのスキルみたいな感じですね」


 主任はそれをしげしげと見回している。


「ここらって暗いので、モンスターは光に弱いんですね。あいつが主任に飛びかかったところを、これで動きを止めます」


「……待って。それってつまり、わたしを囮にするってこと?」


「お、さすが飲み込みが早いですね。じゃあ、さっそく準備を……」


「だめ、そんなのダメ!」


「甘ったれたこと言ってんじゃないですよ。さ、やりますよ」


「なんでちょっと楽しそうなのよ!」


「大丈夫、大丈夫。死ななければ、おれの『ヒール』で治せますんで」


「そういう問題じゃ、あ、ちょっと、話を聞けえ――――!」



 …………

 ……

 …



 洞窟の向こうから、血の臭いがする。

 探索スキルで位置を確認。

 やはりこちらに向かっている。


「じゃあ、おれは隠れてるんで」


「ほ、本当に大丈夫なんでしょうね……」


「近くで見てるんで大丈夫ですよ」


 いやあ、鬼の黒木がビビってる姿を見れるなんて役得だなあ。


「とにかく、さっき教えた通りです。いいですね?」


「わ、わかったわ」


 おれは岩の裏に隠れた。


 隠密スキル『カモフラージュ』。


 おれよりもレベルの低いモンスターは、おれのことに気づけなくなる。


 ちょうどそのとき、ブラッド・ウルフが現れた。

 最上層のモンスターは基本的に知能が低い。

 自分の罠が破られたら、そのあとは真っ向から襲ってくるのが特徴だ。


「き、来なさい!」


 がちがちに緊張したまま、主任が大剣を抱えるように構えた。


 それを合図にするように、ブラッド・ウルフが地を蹴る。


 主任はぎゅっと目をつむった。

 その瞬間、手前の地雷が起動して眩い光が空洞を包み込んだ。


 ブラッド・ウルフは硬直して、目をかきむしるようにのたうち回る。


「いまです!」


 主任が目を開けた。

 そして、ぐっと剣を押し込むように前方に突き出した。


 ――ドスッ!


 それは見事にブラッド・ウルフの脇腹に突き刺さった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る