34-2.神の贄


 おれたちは最後のエピックへと走っていた。

 寧々の反応が、少し後ろからぴったりとついてくる。


 キルスティールは確かにハマれば決定的だ。

 しかしハンターには、向き不向きがある。


 寧々と眠子は確かに得意だが、防御専門の美雪ちゃんはそうはいかない。

 まだアナウンスもないし、最後の一体はまだ狩られてはいないだろう。


「……でも、妙だ」


「お兄ちゃま。どうしたのかえ?」


「さっきから、一匹もモンスターと遭遇しない……」


 ここに来るまでは、何匹か遭遇したんだけど。


「よいことではないか」


「まあ、そうなんだけど……」


 まさか、周辺のモンスターがすべて狩られたということもあるまい。

 いまは一刻もはやく、美雪ちゃんのキルスティールを妨害して……。


「ね、ねえ、祐介くん! 得点表、見て!」


「な、なんですか!? いまはそれどころじゃ……」


 言いながらも、腕章に魔力を込める。

 それを見て、おれは目を疑った。


現在ポイント

 【牧野】――9

 【小池屋】――200

 【並盛つゆだく】――56

 【家族マート】――4

 【アトランタス】――12


「な……っ!?」


 問題は【並盛つゆだく】の56ポイント。

 まだ三十分ほどしか経過していないのに、このポイントはありえない。

 はなからエピックを捨てて、散在するモンスターを追っても不可能だ。


 その間にも、ポイントは58、61、62、と数十秒ごとに増加していく。

 まるで計測器が狂ったようだ。


 不正か?

 いや、それならアナウンスがあるはずだ。


 もしこれが不正でなく、本当に狩っていたとしたら。

 たとえおれたちが最後のエピックを獲得できても、追いつけない。


 いったい、どうやって――?



 …………

 ……

 …



 チーム【並盛つゆだく】。

 店長は小高い丘の上で、じっとエリアをつなぐ洞窟を見つめていた。


「四時の方角、来ましたー」


「……よし」


 その隣で、ハイドは愛用のライフルを構えていた。

 向こうのエリアから現れた複数の影に狙いを定める。


 マーマン。

 魚に足が生えたようなモンスターだ。

 二つ隣にある水属性のエリアから来たのだろう。


「――死ね」


 ハイドが引き金を引いた。


 ――ドウンッ!


 銃撃とともに、マーマンの一体のモンスター核が砕け散った。

 ハイドの腕章が黄色く点滅し、ポイントの獲得を知らせる。


 彼はそのまま照準をずらす。

 そして同じように、マーマンたちを順に撃ち抜いていった。


「いやあ、稼げますねえ」


「……そうだな」


「でも、いいんですか? 【小池屋】がとんでもないことしてるみたいですけど……」


「問題ない。いくら大物をすべて手中に収めても、それ以外をおれたちで狩りつくせばいいだけだ」


「そっすねえ」


 すると、うしろのほうで、つかさが叫んだ。


「ハイドさあんっ! わたし、お役に立ってますかあー!」


 振り返った。

 彼女がハイドによって木に縛り上げられている。


「立ってる、立ってる。だから、そこでじっとしてろよ」


「でもハイドさん、いい加減、退屈ですよ! わたしにも狩らせてください!」


「縄を解いたらおれが撃つ」


「ひどいですよ!?」


 ――ウルトラ・スキル『神の贄』。


 モンスターを引き寄せるパッシブスキル。

 つかさのこれにより、他のエリアからわんさかとモンスターを引き寄せる。

 それを店長の広域探知スキルで発見し、ハイドの銃撃で狩る戦法だった。


「……でも、中学生の女の子を囮にするとか、良心の呵責がすごいんですけど」


「あいつが来たいと駄々をこねたんだろ」


「まあ、そうなんですけど。なにも縛らなくてもいいじゃないですか」


「仕方ねえだろ。あいつを放置すると、なにをしでかすかわかったもんじゃない」


 結局、ハイドさんがいちばん楽しんでいるんじゃ……。

 店長はその言葉を飲み込んだ。


「……あれ?」


「どうした?」


「……ハイドさん、あれ」


 ふと、つかさを縛る木を見た。

 彼女の姿が忽然と消え、一枚の紙がナイフで刺してある。


『こんなこともあろうかと、脱出スキルを覚えていたんですよ! べーっ!』


 まさか……っ!


 すかさず広域探知スキルを発動する。

 向こうのエリアへの通路に、巨大なメイスを背負った影を見つけた。


「ハイドさん、あそこ!」


 ハイドはライフルを背中に担ぐと、忌々しそうに叫んだ。


「……どうやら、よほどおれから撃たれたいらしいなァ!」

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