主任、きっと運も実力のうちですよ

34-1.先制点


『チーム【小池屋】、小池選手の『キルスティール』により100ポイントを獲得です!』


 ……くそ、やられた。


 そのアナウンスに、姫乃さんがきょとんとする。


「え、え、どういうこと?」


「……この『ハント』では、モンスターのラストヒットを決めたチームにポイントが加算されます。それを利用して、ラストヒットだけ掠めとる戦法が『キルスティール』です」


 おそらく、ステルススキルでずっとおれたちを尾けていたのだろう。

 そのため、寧々たちはずっとポイントが加算されずにいたのだ。


「そ、そんなのずるいわよ!」


「そうですね。海外のランク戦でもマナー違反とされ、観客に最も嫌われます。……でも、反則ではない」


 これなら、最小の労力で最大の戦果を挙げられる。


 しかし反面、とてもリスキーな戦法だ。

 ステルス中は一切のスキルが使えず、大物を狩るまで待ち続ける忍耐力も必要だ。

 その上、張りつく相手の力量次第では、時間を無駄に浪費することになる。

 キルスティールを確実に行うには、よほど場数を踏んだハンターでなければ無理だ。


「……寧々。いくら地方大会でも、やりすぎじゃないか?」


「べつにー? 勝てば官軍っつーだろ。それに、いまはどこともスポンサー契約してねえからな」


「くそ……」


 無駄な問答だ。

 互いが互いの持てる限りのスキルで結果を出す。

 それがモンスターハントのルールだと、おれは身に染みてわかっている。


「ゆ、祐介くん。どうするの?」


「……仕方ありません。間に合うかわかりませんが、新たな大物を狙いに行きます」


「でも、だいぶ時間が経ってるわよ。できるのかしら」


「まあ、運がよければ、ですけど……」


 他のチームをけん制しながら大物を狩るのは、口で言うほど容易くはない。

 しかも【小池屋】は寧々がこっちに来ていることで、人数が不利な状態でそれを行わなければならないのだ。


 相手はアマチュアとはいえ、それでもレベル制限のあるこのステージ。

 あるいは、おれたちにも希望はあるかもしれない。


「寧々。おまえの戦法は理解した。これからもおれたちにステルスで張りつくつもりだろうが、こうはいかないぞ」


 魔素の消費は痛いが、常に『エコー』で寧々の位置を把握していればいい。

 場所さえわかれば、あとはタイミングだけ。

 それもこちらで誘導することも可能だ。

 そうなれば、彼女のキルスティールを防ぐこともできる。


 しかし、寧々の表情は余裕であった。


「アハハハ。ほんとうに、おまえは平和ボケしてるよなあ」


「……どういうことだ?」


「たった100ポイントぽっちで、わたしらが満足するわけねえだろ?」


 同時に、アナウンスが響いた。


『チーム【小池屋】、眠子選手によるキルスティールが成功! 100ポイントが加算されます!』


 寧々が鋭い眼光で、おれたちを見据えた。


「――このステージの大物は、わたしらが全部いただく」



 …………

 ……

 …



 トーナメント会場の映像。


 チーム【アトランタス】がエピックモンスターに止めを刺そうとしたとき。


 突然、土の中から眠子が現れ、モンスター核の奪取に成功。

 彼女は欠伸をすると、揚々と土の中へと戻っていった。


 利根は、隣に座るピーターを睨んだ。


「あんた、これを知ってたのか?」


「いや? ただ、あのネネが普通にやるとは思わなかっただけさ」


「……チーム全員が個別に他チームに張りつき、フロアのエピックをすべてキルスティールするね。確かに、こんなのプロでもやらない」


 確かにエピックを二体でも狩れれば、勝利は確定だ。

 しかし下手を踏めば、1ポイントも獲れずに時間だけ失うところだった。


「……こんなの作戦とは言わないね。ただの博打だ」


「その博打に勝つ自信があったからやったのさ」


 利根は舌打ちする。


「まったく、牧野センパイはなにをやっているんだ。せめて敗者復活戦で上がってきてくださいよ」


「……そう、うまくいくといいけどね」


「はあ? いくら牧野センパイが平和ボケしてると言っても、さすがにアマチュアに……」


 映像が別のパーティに移った。

 それを見た瞬間、利根はあんぐりと口を開ける。


「……な、なんだ、あれ?」

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