18-5.どんどん雑になるサブタイ


「その子は、ここに下ろして」


 ゆっくりとモノケロースを下ろすと、カンテラは家のドアを開けた。


「お母さん、具合はどう?」


 大きな部屋に、一体のモンスターが座っていた。

 やはりそれもカンテラと同じように、下半身が馬の姿をしている。

 しかし彼女と比べると、そのケンタウロスは年老いているように見えた。


「……異界人ですか」


 そう言って、彼女は小刻みな咳をした。


「……あなたは?」


 おれが言うと、ケンタウロスは小さくうなずく。


「わたしはマイロ。秩序の巫女から、この森を預かるものです」


「秩序の巫女?」


「我ら樹木の眷属の長です。どうも、娘がご迷惑をおかけしました」


「いえ……」


 なんとも不思議な気分だった。

 モンスターの家に招かれ、その家主と口を利いている。


 おれは夢を見ているのだろうか。

 だとしたら、なんとも趣味が悪い。


 そう思っていると、ふとカンテラが彼女にすがる。


「テンペスがまた……」


「そうですか……」


 マイロは棚の引き出しから、小さな丸薬を取り出した。


「これが最後の薬です。飲ませてあげなさい」


「うん」


 それを持って、カンテラは家を出ていった。

 残されたおれたちに、マイロが微笑む。


「……不思議ですか?」


「え?」


「わたしたちのような存在が、です」


「ま、まあ……」


 不思議じゃないわけがない。

 おれが返答に困っていると、彼女は苦笑した。


「……そうですね。驚かれるのも無理はありません」


「あなたと、あの子は?」


「わたしたちは、この世界におけるあなた方のようなものです」


「この世界の、おれたち?」


 アレックスが言った。


「……この世界での高い知能を持った生物ということかしら」


「そのような解釈で間違いありません」


 おれは眉を寄せる。


「……むしろ、あなたはおれたちを警戒しないんですか?」


 彼女は首を振る。


「……本来は、あなた方と言葉を交わすことは固く禁じられています。しかし、いまはそうも言っていられませんので」


「というと?」


 彼女は悲しそうに目を伏せた。


「騒乱の巫女が、動き出しました」


「巫女?」


 さっきも同じような言葉を聞いたけど。


「巫女とは、この世界を司る七部族の長。騒乱の巫女とは、風の眷属であるハーピィを統べるものです」


 ハーピィ。


 その言葉を聞いた瞬間だった。


 ――ズキン、ズキン。


 頭に割れるような痛みが走った。


「ユースケ!?」


 アレックスがおれの肩に触れる。

 痛みは増すばかりで、そのうち立っているのも辛くなった。


 ふと、マイロがつぶやいた。


「……これは、ハーピィの呪術」


 棚の引き出しから、一枚の大きな葉を取り出した。


「これは解呪の葉です。……カンテラ!」


 外に出ていたカンテラが戻ってきた。


「どうしたの?」


「テンペスは?」


「いま眠ったよ」


「わかりました。このひとたちを湖へ案内なさい。そして、この葉を……」


「いいの?」


「……この方は、もしかしたら騒乱の巫女とかかわりがあるのかもしれません」


「え?」


 カンテラが不思議そうにこちらを見る。

 やがて、なにかを決心したようにうなずいた。


「お兄さんたち。こっちに来て!」


 アレックスに肩を貸してもらいながら、彼女のあとについて家を出た。

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