24-4.先客


 源さんの工房は、世界各地に存在する。

 日本では群馬と沖縄に持っていたはずだ。


「……ここにも買ったんですか?」


 おれの言葉に、彼女はこくりとうなずいた。


 歩いて十数分。

 彼女について行くと、小さな民家にたどり着いた。


「……この家の中に?」


 源さんは首を振った。


「……こっち」


 そう言って案内されたのは、脇にある倉庫だった。

 ガラガラとシャッターを開ける。


 その中には、青い光の粒子が渦巻いていた。


「……これ、剥き出しのままなんですか?」


「……うん」


 なにを当然のことを、みたいに返事されても……。

 まあ、源さんのことだからちゃんと対策は取ってあるんだろうけど。


 彼女はそのまま、転移装置へと飛び込んだ。

 おれもそれに続くと、やがて暗い洞窟へと降り立った。


 それは鍾乳洞のようなものだった。

 青い光が満ちており、どこか神秘的な空気をかもしている。


「うわ、寒っ!」


「……こっち」


 源さんに言われるまま、おれはついて行く。

 彼女はアレックスとは違い、ダンジョン内で武器を鍛える。

 特殊な錬金スキルを有しており、そのため『風神』のようなスキル持ちの武器をつくることができるのだ。


 少し行くと、小さな空洞があった。


 炉や金床など、武器を制作するための設備。

 ずらりと並んだ試作の剣に、資源になる大量の『魔晶石』が積んであった。


「…………」


 すると、源さんが舌打ちした。


「あれ?」


 おれはそれを見て、目を丸くする。

 魔晶石の欠片に、芋虫のようなモンスターがうねうねと這っていた。


「ここ、空ダンジョンじゃないんですか?」


「……うん」


「え。それじゃあ、モンスターの襲撃はどうするんですか」


 素材を鍛えるために、魔晶石は必要だ。

 しかし、それは同時にモンスターの餌にもなりうる。


 だから源さんが工房を構えるときは、皐月さんのところのようにモンスターのいない空ダンジョンを使うのだが。


「……用心棒がいる」


「用心棒?」


 いわゆる契約したハンターのことだ。

 しかし、源さんの顔は渋い。


「……はず」


「はず?」


 確かに見回しても、それっぽいひとはいない。


 源さんは小さなため息をついた。


「……いた」


 その視線を追うと、壁の上のほうに大きなくぼみがあった。

 そこに、もぞもぞと動く影がある。


 源さんは巨大な金槌を持ってそちらに向かった。

 その壁をさすると、それを振り上げる。


 ――カァ――――ンッ!


 振動が響いた。

 途端、くぼみの影が慌てて動き出した。


 そして――。


「んぎゃあ!」


 ――ドサッ!


 そこから小柄な影が落ちてきた。

 それは地面に落下すると、あいたたた、とお尻をさすった。


 セーラー服を着た、赤髪の少女だった。

 ぎろりと源さんを睨むと、彼女は文句を言った。


「ていうかあ! いきなり落とすとか、マジありえないんですけどおー!」


「……寝てるほうが悪い」


 言いながら、芋虫を指さす。


「……あれ」


「はあ? あんなの、ただの虫けらじゃないですかあー。別に放っておいても……」


「…………」


 じろり。

 源さんの迫力に押されて、赤髪の少女がたじろぐ。


「しょうがないなあー。夜ご飯、奮発してくださいよおー?」


 彼女が手のひらを向けると、そこから火炎弾が撃ち出された。

 それは芋虫を焼き払うと、一片も残さずに消し炭に変える。


「…………」


 一見、豪快でありながら、その精密なコントロール。

 この若さで、なかなかレベルの高い……。


「……あっ」


 その少女が、ふとこちらを見た。


「……て、てめえ」


「え?」


 彼女はわなわなと震えながら、おれを指さした。


「なんで、てめえがここに!?」


「は?」


 知り合い?

 いや、でも、こんな特徴的な赤髪の女の子なんて忘れるはずが……。


「――あっ」


 おれはそのことに、ふと思い至った。

 あの赤髪は、もしかして――。


「……あ、あのときの、ラミア?」


 少女がそれを肯定するように、ぎろりをおれを睨みつけた。


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