12-4.おれたちヘルムコンビ


「えー。というわけで、みなさんにはダンジョンの第一層でハントを楽しんでいただいたのち、そちらの酒場で懇親会に参加していただきます」


 美雪ちゃんが日程の説明をしている。


 ざわ。


 ざわざわ。


「……まあ、ダンジョンと言っても危険度の低いエリアです。それにプロハンターたちがみなさんの安全をお守りしますので、どうぞ安心してレクリエーションをお楽しみください」


 みんなが席を立ちながら、ぞろぞろと転移の間に移動する。


 視線がちくちくと突き刺さる。

 最後になると、おれも移動するために立ち上がった。


 が、廊下に出たところで美雪ちゃんに捕まった。


「ちょっと、マキ兄!」


「な、なに?」


「やっぱり、それはどうにかならないの!?」


「……いや、だって」


 おれはふと、廊下にある鏡を見た。


 そこには某宇宙暗黒騎士ばりの真っ黒い仮面をかぶった男が立っていた。

 もちろん顔だけだから、下はカジュアルな服装だ。


「ここのレンタル品、フルメイルのはこれしかなかったんだよ」


「すごく浮いちゃってるじゃん! これコンパだよ!?」


「そんなこと言ってもなあ」


 そこへ、主任が声をかけてきた。


「あら。なにしてるの。みんな、もう行っちゃったわよ?」


「あ、主任……」


 おれは彼女を見た。


 ちなみに主任も兜をかぶっている。

 まんま馬の頭部をかたどったもので、首の部位にバイザーがついていた。

 おもしろパーティグッズみたいな代物だが、防御力はなかなかのものだ。


 ……あれ?


「主任、それレンタルじゃないですよね?」


「そうよ。この前、通販で買ったのをここで保管してもらってたの。格好いいでしょ?」


「…………」


 美雪ちゃんが深いため息をついた。


「あー、もう、わかった、わかった。なにも言わないから、せめて場が白けないようにしてねー」


「りょ、了解……」


 と、下の階のほうから呼ぶ声が聞こえる。


「最後の方、まだですかあー」


 やべ。


「あー、はい。すぐ行きますー」


 おれたちは転移の間に入って、いつものようにダンジョンに転移する。

 すでに他の参加者は到着しているようだった。


「ダンジョンってこんな感じなんですねえ」


「思ったより普通だな」


「モンスターが襲って来たりしないんですかねえ」


 参加者はだいたい二十代半ばといった様子だ。

 みんな初めてのダンジョンに、興味深そうに周囲を見ている。


 そこへ、向こうから寧々がやってきた。


「どうもー。プロハンターの小池でーす。各自、そっちにある木刀を持ってください。あ、特別なやつなんで、他のひとに向けちゃダメですよー」


 それに反応したのは岸本だ。


「え、子どもがプロハンター!?」


 いらりん。


 寧々の額に青筋が立った。

 やつは跳躍すると、そのまま岸本へ鋭い蹴りを放つ。


 ――ズガンッ!


 おれは慌てて寧々の蹴りを受け止めた。

 そのまま足を掴んで、やつが第二撃を放つのをけん制する。


「なんだこいつ、離しやがれ!」


「落ち着け。おれだ!」


「え。……牧野?」


 しげしげとおれの顔を見る。


「なに、その頭の悪そうな格好……」


「いや、ちょっとな……」


「……まあ、いいけど」


 やつはため息をついて、パンパンと手を叩いた。


「じゃあ、順路の看板に沿って歩いてくださーい。未知なる冒険へしゅっぱーつ」


 やる気のないかけ声とともに、ぞろぞろと歩き出した。

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