【本日発売!】プライドの問題です
うわあ、すげえ。
……なにがとは言わないけど。
いや、アホなこと言ってる場合じゃない。
「え、えっと、主任。これは……」
彼女は呆然としていたが、やがてその目が、ギンッとつり上がった。
「寧々さん! いないと思ったら、なにやってるんですか!!」
「おいおい怒んなよ。ちょっと旧友と親交を温めてただけじゃねえか」
「怒りますよ!!」
「ああん? こんなでけえもんぶら下げといて、細かいことうるせえな」
「きゃああああああああ! な、なにするんですかあ――――っ!」
二人がぎゃあぎゃあ言い合っている隙に、慌てて大浴場から逃げ出した。
「……あれ?」
ふと見ると、脱衣所でこちらの様子をうかがっていた人影が。
「ハッ!? あ、いやいや。これは別にやましい気持ちじゃなくてですね。ちょっと小説のネタになるかなー、なんて」
「…………」
なんや適当な言い訳を並べる眼鏡ちゃんを見て、おれは表のプレートを差し替えたのが誰かわかった。
「きみ、やっていいことと悪いことが……!!」
――がしっ
うしろから、首根っこを掴まれる。
振り返ると、悪鬼羅刹のような顔をした主任が立っていた。
「牧野、あんたもよ!!」
「……ソ、ソウデスヨネー」
こうして温泉旅行の夜は、彼女からの長いお説教で幕を下ろしたのであった。
†
後日、寧々といっしょに『KAWASHIMA』に赴いたときだった。
「あ、マキ兄。悪いねえ」
「いや、おれもちょうど、予定なかったからさ」
今日はここで、寧々のクエストを手伝う約束だったのだ。
「じゃあ、わたし先に着替えてるから」
「了解。おれもすぐ準備するよ」
クエストの登録をしていると、ふと美雪ちゃんが一冊の文庫を差し出してきた。
「はい、マキ兄のぶん」
「え?」
その本のタイトルを見る。
『美人上司とダンジョンに潜るのは残業ですか?2』
あー。
これ、眼鏡ちゃんの本だっけ。
あのときのことを思い出して、なんとも言えない気分になる。
まあ、いくらなんでも、あんなことを書いたりは……。
ぺらり。
「こ、これは……」
その内容を見ながら、おれは愕然としていた。
そこには、主人公がヒロイン二人に温泉で迫られる謎のイベントがイラスト付きで描かれていたのだ!
美雪ちゃんが肩をすくめる。
「なんか取材した結果、そんな感じになったんだって」
「いやいやいや。これじゃまるで、寧々がおれのこと好きみたいじゃん!」
「…………」
なぜか可哀想なものを見る目で見られた。
あれ、なにか変なこと言ったか?
「ていうか、いくらなんでも、こんなの寧々に見られたら……!」
すると寧々が、更衣室から戻ってきた。
「どうした? はやく着替えろよ」
「ね、寧々! おまえ、この本……!」
「あー。そういえば、うちにも送られてきたっけな」
平然としたものである。
あれ。もうちょっと、反応したりすると思ったんだけど。
「……おまえ、なんとも思わないの?」
実際、主任たちはすごい怒ってたし。
「なんで? だって、フィクションだろ?」
「ま、まあ、そうなんだけど……」
な、なんか大人だな。
まあ、寧々にとっちゃ、こんなのお遊びみたいなものなのかな。
「どれ、貸してみろよ」
「あ、ああ」
すると寧々は、そのイラストを見ながら、なぜかにやにやしている。
その視線は、寧々をモデルにしたらしきヒロイン――その胸元に向けられていた。
そして、ぼそりと。
「Cは固いな」
おれはふと、寧々の胸に目を向けた。
「…………」
そして、イラストのヒロインに目を向ける。
そこには確かに、現実の寧々にはないものがあったのだ。
……おまえも実は悩んでるんだな。
――――――――――――――――――――――――――――――
というわけで、美人上司とダンジョン第2巻、本日発売です。
外回りの際、お帰りの際など。
書店などに立ち寄る機会がありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。
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