37-4.vsザ・利根!


 ――牧野たちからエリアを三つほど離れた場所。


「わっはっはあ――――っ! やっぱあたしが最強じゃね!? じゃね!?」


 ハナがノリノリでモンスターを焼き払っていた。


「こら、おハナ! 調子に乗るんじゃないの!」


 佐藤にたしなめられるが、スキルのキレは増すばかりだった。


「ていうかあーっ! 昨日の【ザ・利根!】が優勝候補だったらしいじゃん? つーことは、うちらが優勝ってことっしょ!」


「ま、まあ、順当に考えればそうかもしれないけど」


 言いながら、佐藤はショットガンを構える。


 ――ズドンッ!


 発射された魔弾が、目の前のモンスターを粉砕する。


「まあ、源さんのおかげよねえ」


「いや、あたしじゃね?」


「いやいや、この魔銃、ほんとやばいから。トーナメントじゃ反則でしょ」


 と、目の前に巨大な狼が姿を現した。

 その身体は炎をまとっており、ハナの火炎スキルを易々と防いだ。


「やば、属性被りじゃん!」


「おハナ、下がりな! ……源さん、お願いします!」


「……わかった」


 背後に控えていた源さんが、金づちを振り上げる。

 それをショットガンの側面に埋め込まれた魔晶石に打ちつける。


 ――カァーンッ!


 途端、魔銃が青い魔力をまとった。

 引き金を引くと、冷気スキル『ブリザード』をまとった弾丸がモンスターを貫く。


【どさんこ+】20ポイント加算


「ひゅーっ」


「やった! いまのレアだ!」


 佐藤はその魔銃をしげしげと見回す。


「源さんのスキルで属性変化する魔銃かあ。多属性ダンジョンにはうってつけだよねえ」


 常に攻撃がクリティカルになるというのは、それだけで他のチームに時間的な優位を取ることができる。


 と、そのときだった。


「隠れて!」


 草むらに身を隠す。

 すると、目の前を巨大なモンスターが横切って行った。


 さっきとは逆に、冷気をまとった熊のようなモンスターだ。


「……エピックの一体だ」


「ラッキーじゃね? やっちまおうよ」


「そうね。見た感じ氷属性だし、おハナのスキルとこの魔銃があればいけるでしょ」


「じゃ、あたしが引きつけるから、うしろからよろしくー」


 ハナが両手に魔力を込めて、モンスターの前方に回り込む。

 そのモンスターの正面から火炎スキルを放った。


 不意を突かれたモンスターは、そのスキルを正面から食ら――。


 ――ガキィィィィンッ!


 その火炎が、横からの衝撃派で弾かれた。


「はあっ!?」


 ハナがそちらを向くと、髪の一部を青く染めた少女――紫苑が立っていた。

 その手には、身の丈ほどもある大剣を構えている。


「ちょっとストップ、ストップ。それ、わたしらの獲物だからさあ」


「おまえ、昨日の【ザ・利根!】のやつじゃん!」


 ハナは舌打ちすると、向こうの茂みのほうへ合図を送る。


「負け犬がしゃしゃり出てくるとか笑えるし。ていうか、こんだけ人数差があっちゃ無駄じゃね? リーダーッ!」


「任せな!」


 佐藤が魔銃を構える。

 モンスターの背中にあるモンスター核を狙い、引き金を引いた。


 ――スンッ


 しかし不発だった。

 続けて引き金を引くが、魔銃はうんともすんとも言わない。


「なに遊んでるし!」


「い、いや、普通にやってるけど、ちょと、源さん?」


 すると、源さんに異変が起こっていた。

 彼女は手のひらを見つめながら、がたがたと震えている。


「……あ、あれ?」


 その視線が、ふとハナの背後でぴたりと止まる。


「おハナ! 危ない!」


 ――ぞくりっ


「え?」


 突然、背後に現れた不穏な魔力に振り返る。


 ――そこには、黒ずくめの男が不敵な笑みを浮かべて立っていた。

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