37-5.たった一つの冴えたなんとか


「どりゃあああああああああああああああ」


 姫乃さんの剣撃がうなる。


 しかしそれはモンスターの直前で、見えない壁に防がれた。


「あ、また!」


「姫乃さん、下がって!」


 おれたちはモンスターから距離を取る。

 そして向こうには、牡丹がスキルを展開していた。


「ふっふっふーん。これじゃあ、いつまでもポイント獲得できないねーっ」


「くそ……!」


 ――十重の防壁『ストーン・エイジ』


 防御スキルによって発動した魔力の盾。

 それを各所に配置することで、こちらのモンスターへの攻撃をことごとく無効化している。


 各チームのポイントを確認する。


 【迷宮美食探求会】――21

 【牧野】――4

 【どさんこ+】――34

 【黒魔術倶楽部】――19

 【ザ・利根!】――29


 接戦だが、少しずつ差は開き始めている。

 こちらも早急に手を打たなければ、取り返しがつかないことになるだろう。


「お兄ちゃま! 自分と同じスキルじゃろ! どうにかならんのかえ!」


「そんなこと言ってもなあ」


 十個のスキルの同時に展開する、か。

 いやあ、よそから見てると、ほんと反則技だよなあ。


「でも、同じスキルなら、同じ技で突破できるんじゃないかしら。ほら、あんたも攻撃スキルを十個、撃ち込めばいいじゃない」


「お! おっぱいお化け、いいとこに気づいたの! ほれ、お兄ちゃま。やってみい!」


「お、おっぱいお化け……」


 トワのやつ、なんだかんだ楽しんでるよな。

 まあ、このピンチなの、こいつが戦えないせいなんだけど。


「……でも、たぶん無理」


「ど、どうしてじゃ!」


「そもそもの基礎スペックの差だな」


「でもここ、上限レベルが決まってるんでしょ? というか、レベルならあんたのほうが高いじゃないの」


「いや、レベルの話じゃなくてですね……」


 なんと言ったものか。


「そもそも『十重の武装』は、ハンターの取得しているスキルを十個同時に使うウルトです」


「それは知ってるけど」


「で、おれは基本、どの種類のスキルもまんべんなく取っているので、スキル自体の威力が低めなんですよ」


「え、そうなの?」


「はい。それを臨機応変に重ねたりバラバラに使ったりするので、レベルの高い相手ともやりあえるわけです」


「それのどこがいけないのかえ?」


「うーん。対して牡丹と紫苑は、それぞれ防御と攻撃に特化したスキル構成をしているって言えば、わかるかな?」


 ネットの情報によると。

 牡丹が補助スキルを少し取って、他を防御スキルに極振り。

 そして紫苑も補助スキルを少しと、他を攻撃スキルに極振り。


「つまり、わたしの防御スキルに牧野さんの攻撃スキルを撃っても、元のスキルの威力の差でこっちが勝つってことー」


「なあ!? そんなの卑怯じゃろ!」


「……卑怯っていうか、そもそも『十重の武装』の推奨される使用方法はあっちだからな」


 おれがこれで世界ランクに上り詰めたのは、その戦術がたまたま時流に乗っていたからだ。

 ただ、やはり現在のトレンドとしては、牡丹たちの使用方法が強い。


「じゃあ、どうするの?」


「そうですねえ」


 確かにこのまま張りつかれても、らちが明かない。

 この間にも他のチームとの差は、どんどん開いていく。


 おれは考え、ふと閃いた。


「……よし。逃げましょう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る