37-3.十重の武装


 ダンジョンに降り立ち、競技がスタートするまでの十数分。

 おれたちは最後の確認をする。


「今回のテーマである『ハント』には、二通りの基本戦略があります」


「二通り?」


「はい。ひとつは、昨日の試合でやった『スリーマンセル』です。三人が常に固まって行動し、着実にポイントを重ねる方法です」


「それ以外って?」


「『ワン・オア・ツーマンセル』です。昨日の寧々たちのように、三人が個別に行動し、それぞれの役割を遂行します。これはモンスターを狩ること以外に明確な目的がある場合に採用します」


「わたしたちはどうするの?」


「もちろん『スリーマンセル』です。トワが戦えない以上、戦力を割くことはできません」


 そのトワが聞いてくる。


「じゃあ、どうしていちいち説明するのかえ?」


「おそらく、利根たちが『ワン・オア・ツーマンセル』を採用してくるはずだ」


「じゃあ、昨日の寧々さんたちみたいに個別にエピックを狙うってこと?」


「いえ、今回の狙いは、おれたちの妨害のためです」


 少なくとも、敗者復活戦ではそういう話だった。

 三人がそれぞれのチームに張りつき、ポイント獲得を妨害する。

 そしてすべてのエピックをハントし、勝利したのだ。


「でも、それってマナー違反なんじゃ……」


「それはあくまで、キルスティール目的のステルスです。特定のチームを警戒する場合、ひとりが妨害のために張りつくこともあります」


 混戦になるほど、ラストヒットの獲得も複雑な経緯になる。

 それがキルスティールや、モンスターの保護を禁止にできない理由だ。


「ただし、今回のステージは中層フロアの下のほうになります。レベル制限を受ける以上、利根たちも午前のようにうまくできるわけではありません。なので、最も警戒しているはずのうちのチームに一人を張りつかせ、他の二人でハントする形を取るでしょう」


 この場合は警戒しているというより、おれに力の差を見せつける目的だろうけど。


「じゃあ、利根さんが来るのかしら」


「いいえ。あいつのスタイルは仲間がいて初めて能力を発揮するものです。昨日のデータを見る限り、牡丹をぶつけてくると思います」


 そのとき、アナウンスがコールした。


『それではトーナメント決勝、スタートです!』


 その瞬間だった。



 ――七重の探知『オーバー・エコー』発動



 魔力の波が、フロアを包み込んだ。

 それは反響し合い、やがて全域をマッピングする。


 からからとトワが笑った。


「お。いきなりとはやる気じゃのう、お兄ちゃま」


「…………」


 おれはそっと魔力の反応をさかのぼる。

 おそらく、やつらは右から来るだろう。


「いまのは、おれじゃない」


「え?」


「来るぞ、構えろ!」


 右の洞窟から、強い魔力を放つ反応が近づいてくる。

 それは洞窟を抜けると、このエリアに飛び出してきた。


「牧野さん、見ぃーっけ!」


 髪の一部を赤く染めた双子の一人、牡丹。


 その周囲に展開する十個の球体。


 若干、十四歳の彼女らを、一躍、世界的ハンターへと押し上げたそのウルト。


 ――その名は『十重の武装フル・アームズ

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