31-5.ちなみにうちは


 ぶひぶひ。

 豚たちが鳴いている。


「……なんか臭い」


「まあ、昼間と違って出入り口も閉めてますからね」


「なんとかしなさいよ」


「いや、だから宿舎のほうで休んでてくださいって言ったじゃないですか」


 おれたちは夜の畜舎で張り込んでいた。

 明かりはつけられないから、手元にランタンの火を灯している。


 とはいえ、例のモンスターが出てくるかはわからない。

 あくまで様子を見て、おれの意見が欲しいというのが源さんの頼みだったからな。


「……でも、本当かしら」


「人型モンスターですか?」


「えぇ。だって、普通はわたしたちが活動している場所に出てくるものじゃないんでしょう?」


「まあ、皐月さんの話だとそうですけど」


 とはいえ、その話で油断するわけにはできない。

 おれは過去、三度も人型モンスターに接触しているのだ。


 まあ、その一回の記憶はまだ戻らないんだけど。


「見間違いという可能性もあります。とにかく、油断しないようにしましょう」


「そうね。それがいいわ」


「…………」


「……なに?」


「いえ、あの……」


 おれは姫乃さんの手元を指さした。

 彼女は軽やかな手つきで、シュパパパとトランプを切っている。


「いや、おれの言ったことわかってます?」


「夜は長いわ。眠くならないように、意識を集中しなきゃ」


「どんだけトランプ楽しみなんですか。ていうか、シャッフル上手すぎ」


「見て見て。こんなこともできるのよ」


 そう言って、片手だけで器用にトランプをシャッフルしてみせる。


「うわ、ワンハンド・シャッフルやってるひと初めて見た。なんですか。手品師でも目指してたんですか」


「違うわよ。中高のころに練習するでしょ?」


 少なくとも、おれはしたことないなあ。


「で、で、なにする?」


「うーん。じゃあ、スピードでもやります?」


 暗いからアレだけど。


「もうちょっと普通のからやりましょうよ。ほら、ババ抜きとか」


「二人でババ抜きとか本気ですか」


「しょうがないわねえ。じゃあ、大富豪にしましょ。やり方は知ってるもの」


 うーん。大富豪も大して変わんないんだけどいいか。

 おれはカードを分けながら、ふと思ったことを言った。


「でも、大富豪ってローカルルールすごいですよね。姫乃さんところ、どんなのありました?」


「え? 数字が強いのを出していくんじゃないの?」


「いや、そういうんじゃなくて、ほら、地域によってルール違いますよね。大学のとき、寧々がいきなり『Qボンバー』とか言い出して口論になったりしたんですけど……」


「…………」


「あれ。どうしたんですか?」


 姫乃さんが黙ってしまった。

 なんとも微妙な顔でそっぽを向いてしまっている。


「……ない」


「え?」


 キッ!


「うちの地元にはそんなのないの! だから普通の大富豪よ!」


「え、あ、そうなんですか? ひとつも?」


「ないのよ! いいからやるわよ!」


 ぷりぷり怒りながら、カードを睨みつける。


 ……なんか、触れちゃいけないものだったらしい。

 おれはため息をつきながら、カードを出していった。

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