31-4.個人的に徹夜はボードゲーム派


「ここが防衛ラインです」


 牧場の端で、おれたちはその魔具を見上げた。

 それは監視カメラのようなフォルムだが、生憎とそのような機能はない。


「ここから侵入すると、どうなるんですか?」


「この魔具に反応すると、そこら中から刃が飛び出してきます。普通のモンスターだと、まず助かりませんね」


「危なくないですか!?」


「まあ、そのくらいしないと家畜たちを守れませんから。それに、ここの職員は決して近づきません」


「仮に故障などで出てしまったら?」


「あまり考えたくはありませんけど……。もしものために、わたしたちはこの魔晶石を必ず身に着けています」


 そうして見せられたのは、首にかけた赤い宝石だった。


「これで『エスケープ』が使えます」


「なるほど。じゃあ、家畜はどうですか。いなくなると言いましたけど、本当に脱走しているということはないんですか?」


「家畜にこの魔具をすり抜けるのはまず無理です」


「もし近づいたら?」


「同じようにぐさり、ですね」


「いいんですか?」


「モンスターが家畜の味を覚えるほうが問題なので」


「まあ、そうですね」


 おれはそのトラップを確認した。

 牧場を囲むように、円形に設置されたそれ。


 一見、隙はないように思える。


「……引っかかったモンスターの死骸は?」


「こちらで回収します」


「いえ、そういう意味じゃなくて……。家畜がいなくなったときに、このトラップはどうなっていましたか?」


「発動していました」


「じゃあ、モンスターも?」


「いいえ。それが、刃に血だけがついていて、あとはなにも……」


「…………」


 それはグロいな。


「……うーん。どちらにしろ、様子を見ないとなんとも。狙われる家畜というのは?」


「うちでは豚ですね」


「じゃあ、その畜舎に張り込むしかないですね」


 おれは姫乃さんに向いた。


「あ、姫乃さんは飼育員の宿舎を貸してくれるそうなので、そっちで休んでいてください」


「え。いやよ、わたしもやるわ」


「でも、たぶん徹夜ですよ?」


「いいじゃない。楽しそうだわ。そうだ、トランプとかあるかしら」


「え、えーっと、そういうのは……」


 ガイドさんが微妙な顔で見ている。

 ……林間学校じゃないんだけどなあ。


 あ、そういえば、まだ聞いていないことがあったな。


「そういえば、その、見慣れないモンスターというのは?」


「その、見たスタッフも、暗闇だったので詳しくはわからないんですけど……」


 そうして、歯切れ悪い様子で告げた。


「人型をした、モンスターだって……」

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