15-完.やっと出ますよ


「ここが下のフロアか……」


 おれとガニマタは、モンスターたちを退けながら進んでいた。

 途中、すれ違ったハンターたちにも聞くが、それらしいひとは見ていないらしい。


「なあ、牧野さん。あのお姉さん、あんたのパートナーなんだろー? そんな心配することねえじゃん」


「いや、あのひとは、ちょっとな……」


「なんかあんの?」


「…………」


 おれは首を振った。


 いや、余計なことを考えている暇はない。


「それより、おまえも無理すんなよ。ダンジョンは久しぶりなんだろ?」


「もう二年くらい入ってないけど、このくらいは余裕だって」


「いまはバスケ部のほう優先してるんだっけか」


「まあね。ダンジョンは大人になってもできるけど、部活はいまだけだからさ」


「まあ、そうだな」


 学生のうちのダンジョンって、お世辞にも友だちができるとは言えないしな。


「さて、さっき落ちたところだと、この辺だと思うんだけど……」


「あ、牧野さん!」


 ガニマタが指さしたところに、変な洞窟があった。

 壁や天井は比較的きれいに整備されているのに、そこだけ丸い穴になっているのだ。


 まるで、通路の壁に穴を空けたようだ。

 向こうには小さな空洞がある。


 空洞に入ると、そこに甲殻系のモンスターの死骸が転がっていた。


「あ、こいつアントイーターだ」


「じゃあ、主任が落ちたのってここか?」


 でも、この死骸はあのひとの仕業じゃないよな……。


「あー、もう! また戻って来たじゃない!」


 そのとき、通路の向こうから声がした。

 振り返ると、主任の姿がある。


「あ、主任!」


「え、牧野!?」


 彼女もこちらに気づいた。

 おれは慌てて通路に戻る。


「よく無事でしたね」


「あ、あー。まあ、ね」


「あれ。背中になにをおぶってるんですか?」


 それを覗き込むと、どうも見覚えのある顔だった。


「あ!」


「う?」


 その女の子が、目をぱちくりさせた。


「……牧やん?」


「眠子!」


 主任がおれたちを交互に見比べる。


「え。なに、知り合い?」


「知り合いっていうか……」


 と、ガニマタが空洞から出てきた。


「姉ちゃん!」


「えぇ!?」


 主任が思わず、眠子を落とした。


「ふぎゃ!」


「あ、ごめんなさい!」


 おれは、ふたりの様子を眺めていた。


「……どうなってるの?」



 …………

 ……

 …



「改めて紹介します。この子はガニマタのひとつ上の姉で、おれの言ってた魔導士の眠子です」


「どうもー。お姉さん、牧やんのお友だちだったんだねー」


 眠子がへらへら笑いながら、主任の肩をぺしぺし叩いた。


「……で、どうして主任の背中に?」


「だってー。このひとの背中ってちょうどいいんだもん。牧やんの広い背中も安心感あっていいけど、この柔らかな触り心地は病みつきだよねー」


「しゅ、主任はいいんですか?」


「……まあ、諦めたわ」


 主任が遠い目をしてフッと笑った。

 この短い時間の間に、いったいなにが……。


「でもさー。牧やん、ずるくない?」


「な、なにが?」


「これだよ、これー」


 ――がしっ。


 そう言うや否や、眠子が背後から主任の胸を鷲掴みにした。


「ちょ……!?」


「――――ッ!?」


 主任がカチーンと固まった。

 その間にも、わしわしと眠子の鑑定(?)は続く。


「このおっぱい、すごくない? 大きくてやあらかくて、同じ女とは思えないよねー。これを独り占めとか、牧やんえげつなーい」


「ち、違うっつってんだろ! はやく離せ!」


「無理だよー。だってこれ、手が離れてくれてくんないんだもん」


 わしわし。


 主任が顔を真っ赤にしながら、羞恥に耐えている。


「ま、牧野、はやくどうにかして!」


「いや、そうは言っても……。ガニマタ。おまえの姉ちゃんだろ?」


 助けを求めて弟に目を向けるが……。


「姉ちゃん、ずっこい!」


「言ってる場合か!」


 ダメだ、こいつら!

 昔からちっとも変わってねえな!


 と、そのときだった。

 眠子がパッと手を放した。


「牧やん」


「な、なんだ?」


「あっち」


 ハッとして、指をさした先を見る――。


『キシャ―ッ!』


 いつの間にか、数匹のアント系モンスターが忍び寄っている。

 おれは剣を構えると、主任たちに言った。


「……続きは、ここを出てから話しましょうか」

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