5-4.スタイル


「はーい、両手を広げてー」


 主任が警戒しながらも、言われた通りにする。

 胸囲や腰回り、そして腕の太さなど、皐月さんが細かく計測していく。


 なぜかじろりと睨まれたので、慌てて視線を逸らした。

 たかが計測なのに、なにが恥ずかしいというのか。


「はい。お終い。楽にしていいよー」


「皐月さん、どうですか?」


「うん。まあ、やっぱり特注したほうがいいかもねえ」


 皐月さんがタブレットをぽちぽちやりながら言った。


「平均よりも背が高めだけど、腰回りは細いしね」


「あー。それは既製品じゃぶかぶかになりますね」


「あと胸囲なんだけど、見たよりけっこう……」


 慌てて主任が割って入る。


「そんなに細かく言わなくて結構です!」


「え。でも牧野坊にも一応、言っておかないと。いっしょに潜ってるんだろ?」


「そ、それは、そうですけど……」


 皐月さんがちらとこちらを見て、ぐっと親指を立てる。

 いやいや。さっきからおれのためにやったみたいな空気を出すのはやめてくれ。


「あ。あとでこのデータ欲しい?」


「いえ、結構です……」


 そんなもの入手したとバレたら、どんな報復が待っているかわからないよ。


「そうだ。このお嬢さんのスタイルは? オプションつけるでしょ?」


「あー。いえ、オプションはまだ……」


 おれたちが話していると、主任が首をかしげる。


「スタイル? オプション?」


 そういえば、まだ説明してなかったな。


「スタイルはハンターとしての闘い方です。たとえば美雪ちゃんだったら、補助職エキスパート寄りのディフェンダーですよね。特注品はそれに合わせて、装備にいろいろオプションをつけることができるんです」


「なにそれ、かっこいいじゃない! そんなことができるなら先に言いなさいよ!」


「いや、でも主任、まだ明確なスタイルがあるわけじゃないですし……」


 オプションもけっこう金がかかるし、なによりそれらは違うスタイルにとっては邪魔になることもある。


「いいじゃないか。ここに持ってくれば、あとで外すこともできるよ」


「皐月さんは商売として言ってるんでしょ」


「お。バレたか」


 まったく、油断も隙もない。

 オプションがあるのとないのとでは、値段が倍以上も違ってくるからな。


「でも、とりあえずサブウェポンくらいは搭載してもいいんじゃない?」


「……そうですね。とりあえずメインに合わせてベース組みましょうか」


 サブウェポンは、それに合わせたものにしたほうがいい。

 どうせ主任は、格好いいもの優先だろうからな。


「いまのメインは?」


「大剣です」


「え。川島さんとこのダンジョンだろ? あそこで大剣って……」


「まあ、本人がそれがいいって聞かなくて……」


「アハハ。あんた、大学のときはもっと理詰めだったのにねえ。この子にほだされて性格変わった?」


「ち、違いますよ。彼女は仕事の関係だけです」


「えー? そうは見えないけどなあ……」


 メインウェポンの入力が終わると、皐月さんがタブレットの画面を見せてきた。


「さて、この中から好きなものを選んでよ」


 その画面には、いくつもの装備がずらりと並んでいた。

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