5-5.ほら見たことか


 主任は目をきらきらさせながら、タブレットの画面をスライドしていく。

 そこには大剣に合わせて設計された女性用アーマーが並んでいる。


 こてこての前衛職なだけあって、がっしりしたタイプが多い。

 中にはディフェンダーの防具も含まれている。


「ど、どれがいいの?」


「主任が好きなものでいいですよ」


 どうせ言っても聞かないしな。


「わ、これ格好いい」


 主任が指さしたのを見る。


 アーマーの各所にカウンター用の刃が仕込まれたどぎついやつだった。


「…………」


 前言撤回。


「あの、皐月さん。ディフェンダーのは外してもらえませんか。あと、検索ワードに素早さ重視を……」


「あ、こら。わたしの好きなのでいいって言ったじゃない!」


「こんなくせの強いの着てたら、今度こそ死にますよ!」


「でも襲ってきたやつを返り討ちにできるんでしょ」


「それは熟練者が使った場合です。主任が着たら、通路に引っかかって動けなくなるのがオチですよ!」


 皐月さんが、くくく、と笑いをこらえながら重いタイプを除外した。


「お嬢ちゃん。悪いことは言わないから、こいつの言うこと聞いておきな。いつか慣れたら、このカウンターソードもオプションでつけてやるから」


「むう……」


 主任はしぶしぶとうなずいた。


「軽いやつなら、これはどうだい?」


 皐月さんが指さしたのは、ライトアーマーと呼ばれる軽量級の防具だ。

 だいたいはノースリーブで、防御力よりも動きやすさに重点を置いている。


 初心者向けで、扱いやすい。

 面積が狭いから、他の防具を圧迫する心配もない。

 なによりデザインが格好いい。


 その中でも、防具専門メーカー『ARIEL』の最新モデル。

 武器を重点商品とするHOUNDとは逆に、防具だけを生産するところだ。

 ライオンの爪牙をイメージしたこのモデルは、ARIELの看板商品でもある。

 主任もそれを見て、ひと目で納得したようだった。


「いいわね。これがいいわ」


「え。でも主任、これ高いですよ」


 基本金額を確認する。

 しかし主任は平然と言った。


「問題ないわ」


 マジかよ……。

 おれは自分の預金額を思い出して、沈んだ気持ちになる。


「よし。じゃあ、試着してみようか」


 皐月さんの言葉に、主任が眉を寄せた。


「え。でも、特注なんじゃ……」


「あぁ、実物じゃないよ」


 彼女は奥にある『fitting room』へと誘った。

 そこには、三つの個室が並んでいる。


 そのひとつに主任は入った。


「……普通の試着室みたいだけど?」


 あぁ、主任はこれも初めてだったか。

 おれは説明しようとすると、皐月さんが言った。


「牧野坊。あんたもいっしょに入ったげな」


「え。いいんですか?」


「いいよ。パーティメンバーが見たほうがいいだろ」


 主任が、がばっと振り返った。


「え。ちょ、どういうこと!?」


「あ、主任。はやく奥まで行ってください。おれが入れません」


「いや、だからなんであんたが、こら、ひとの話を……!」


「すぐわかりますから。ほら、はやく」


 主任を押し込むと、おれも入ってドアを後ろ手に閉める。

 うーん。やっぱり、ふたりだと狭いな。


「あ、あんた! こんなことしてタダで済むと……」


「いえ、主任。それよりも鏡を見てください」


「え?」


 おれたちの映った鏡が、ゆらりと揺らめく。

 途端、青い粒子の渦が噴き出した。


「うぎゃああああああああああああああああ」


 おれたちはそれに飲み込まれていった。


 このひと、ほんと脅かしがいがあるよなあ。

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