5-6.これもまたひとつのダンジョン
おれたちは青い魔方陣から排出された。
降り立ったのは、ひたすら広いだけの空洞だった。
魔法の松明が焚かれているため、視界は明るい。
主任は不思議そうに見回した。
「こ、ここ、どこ?」
「ダンジョンですよ」
主任の顔が固まった。
「え、そ、それって、ちょっと待って。わたしたち、武器とか持ってないわよ」
「そうです。いまからモンスターの大群が襲ってくるので、それを素手で撃退しなければいけません」
「う、嘘よね?」
おれはその目を、じっと見つめ返した。
「……う、うそ。そんな、え、やだ、逃がしてよ」
本気にしたのか、主任の目が涙ぐむ。
慌てて手当たり次第に、隠し通路を探していく。
おれはその背後に忍び寄って、大声を上げた。
「わ!」
「んぎゃあああああああああああああ」
主任が飛びのいた拍子に、その場につんのめってこけてしまった。
やべ。やりすぎた!
「主任、大丈夫ですか!」
おれは慌てて彼女を抱き起した。
主任はぐずぐず泣いている。
「な、なにすんのよう……」
……ど、どうしよう。
いや、さすがに冗談だってわかると思ったんだけど。
『こら、牧野坊。あんまり女の子をいじめるなよ』
と、どこからともなく皐月さんの声が聞こえる。
見上げると、天井になぜか皐月さんの顔が映っていた。
『黒木ちゃん。心配しなくていいよ。そこはダンジョンだけど、モンスターはいないから』
「……え?」
主任がきょとんとした。
おれは気まずさに、思わず頭をかく。
「ダンジョンの中には、稀にこういうなにもない場所があるんです。もちろん新しいモンスターも湧きませんし、宝箱もないです。そんな場所を利用する商売もありまして……」
『それがわたしたち装備屋とか、ハンターの育成機関だよ』
そう言って、彼女はさっきのタブレットをコードにつないだ。
「な、なにをするの?」
『それはね……』
ピ、ポ、パ。
皐月さんがなにかのボタンを押した。
その瞬間、主任の服装が揺らいだ。
そして次には、先ほど主任が選んでいたライトアーマーが装着されていた。
「な、なにこれ!?」
『魔石の力でデータを転送して、そっちに視覚的に反映させたんだ。重さとか感触とかも再現されてるはずだから、そこで飛んだり跳ねたりして使用感を確かめるといい』
もちろん厳密には錯覚だから、完璧だとは言い難い。
しかし、それでもカタログだけで取り寄せるよりは参考になる。
『で、ここで登場するのがこいつだよ』
振り返ると、狼型モンスターがこちらを警戒しながら唸っていた。
「え。ちょ、ここってモンスターいないって……」
「主任。落ち着いてください。あれはさっきの人形です」
「え? ……あ、本当だ」
人形が唸りながら、距離を縮めてくる。
『さ、それじゃあ試着を始めようか。他にもリクエストがあればデータを転送するから言っておくれ』
「よ、ようし!」
主任は人形に飛びかかった。
しかし人形はひらりとかわし、主任の背後を取る。
そのまま組み伏せられてしまった。
「ぎゃああああああああああああああ」
それを見ていた皐月さんの目が点になっている。
『……あれ。黒木ちゃん、弱くない?』
「皐月さん。主任はまだレベル5です!」
『ええ!?』
おれは慌てて、主任に襲い掛かる人形を押しのけた。
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