4-2.休日出勤のほうがマシ


「……まずいな」


「なんですか?」


「あいつら、未踏破エリアにいるかもしれん」


「な……っ!?」


 おれたちは、現在、このダンジョンで確認されているすべてのフロアにマウス・ポリッシュを放った。


 しかし下層フロアでも、主任たちは見つからなかった。


 これより下は未踏破エリア。


 ダンジョンには必ず、こういう場所がある。

 これ以上は危険だと判断され、転移装置を設置することができないエリア。

 プロのハンターでも、ここに入るには経営者の許可と実績のあるパーティが必要になる。


 どんな未知のモンスターや財宝があるかわからない。

 なんとも胸の躍る話だが、それでも入れないのは『危険地帯』だからだ。


 ――おれはそのことを、身をもって知っている。


「どうなるんですか?」


「こういう場合、プロハンター二名が救助隊として入ることになる。うちの家内は出張中だしな。近くに都合よく手の空いたプロがいればいいが……」


 無理だ。

 とてもではないが、間に合うはずはない。


「……おれが潜ります」


 川島さんが、微かに眉をひそめた。


「いや、それはもちろん可能だが。おまえ、大丈夫なのか?」


「…………」


 おれは自分の腕を見た。

 微かに震えている。


 ……行きたくない。

 それは紛れもない本当の気持ちだ。


 ――でも。


「行けます。連れて行ってください」


「……わかった」


 川島さんと、そのエリアの奥の空洞までやってきた。

 彼は腰に巻いたポシェットから、鍵の束を取り出す。

 そのひとつを、地面に突き刺した。


『キーを確認しました。結界を解除いたします』


 無機質な声とともに、景色が揺らいだ。

 そして次の瞬間、そこにはなかったはずの階段が現れていた。


「降りるぞ」


「はい」


 狭い階段を下りていく。

 やがて下のフロアにたどり着いた。


 妙に静かだ。

 でも、おれたちは確かに見られている。


「上と違って、集団で来るぞ。気を引き締めろ」


「はい」


 それを合図に、洞窟の向こうから足音が聞こえた。

 片手剣を抜いたとき、向こうから数体のサル型モンスターが飛び出してきた。


「――ヌンッ!」


 川島さんの鉄拳が、その顔面をとらえた。

 サルの身体が、まるでダンプカーに突き飛ばされるように壁に激突する。


『キキィ――――!』


 それにひるんだもう一体の首を、おれは素早く跳ねた。


 残った一体は、慌てて洞窟を逃げて行く。


「……ふむ。キレは鈍っていないな」


「ありがとうございます」


「では、行くぞ」


「はい」


 そうして、おれたちは未踏破エリア攻略に乗り出した。


 まったく、休日出勤手当てもらわなきゃやってられないな。

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