21.5-6.覚えてる?
仕事終わり、駅前のカフェ。
なんとかぺんぺらフラペチーノを飲む主任と向かい合っていた。
「……ということがありまして」
話を聞いた彼女が、ぶふっとむせた。
「……ご、ごめんなさい。まさか、岸本くんが手伝ってくれるなんて」
「まあ、おれも予想外でしたので」
おれは自分のアイスコーヒーに口をつける。
「こ、今度から気をつける」
「ありがとうございます」
「次はもうちょっと、うまく隠すわね」
……書類に挟まない方向はないんだなあって。
「そういえば、これからどうする?」
「あ……っ」
今日は水曜日。
ノー残業デーだ。
いつもなら『KAWASHIMA』に行く日なんだけど。
「す、すみません。今日はちょっと、これから用事がありまして」
「え、そうなの?」
しょぼーん、とする。
「こ、今度、また埋め合わせしますから」
胸が痛むけど、こればかりは早く済ませないといけないからなあ。
カフェで主任と別れると、そのまま例のカーペットを購入した店に赴いた。
主任が選んでくれたやつを見に行くと、商品の前に札が貼られている。
『お取り寄せ。二週間~三週間』
携帯でカレンダーを確認する。
主任がうちに来るまで、一週間くらい。
店員さんに確認するが、答えは芳しくなかった。
「……どーしよ」
できれば主任が来るまでに、同じものを買っておきたかった。
一応、まだあのカーペットはある。
もしかしてと思ってたから、洗って保管していたのだ。
……ただ、あれはもう使えないしなあ。
おれが唸っていると、うしろから声をかけられた。
「あれ。マキ兄じゃん」
「え?」
振り返ると、美雪ちゃんが大学の友人と歩いていた。
「こんなところで珍しいね」
「そうだねえ。美雪ちゃんはどうしたの?」
「こっちの友だちがいろいろ買い物あるから、その付き添いだよー」
「あ……」
その眼鏡ちゃんには見覚えがあった。
「きみ、前にダンジョンの取材してた子?」
「あ、覚えててくださってたんですね!」
いやまあ、なかなか強烈な思い出だよね。
「なに買いに来たの?」
「今度のイベントの準備でーす」
「イベント?」
「わたし、たまにコスプレもしてるんですよー」
そりゃまあ、趣味が豊富でいいなあ。
いや、この子の場合、なにが本業かわからないけど。
「そういえば、あの本は売れたの?」
「ぼちぼちです!」
「ぼちぼちですかあ」
よくわからないから詳しくは聞かない。
「それで、マキ兄は?」
「あー、実はね……」
一応、ワインをこぼしたということで話を進める。
「その洗ったカーペット使えばいいじゃん。ワインの染み抜きぐらい簡単でしょ?」
「いや、それが、おれよくわかんなくてさ。うちにあった漂白剤使ったら、もとの色まで抜けちゃって……」
「……あっちゃあ」
塩素系とか酸素系とか、もっと大きく書いてほしいよね。
「マキ兄。そういうとこあるよね」
「面目ない」
「うーん。でも、こればっかりかりはなあ」
少し考えたあと、ぽんと手を叩く。
「そういえば、あれは?」
「あれ?」
すると美雪ちゃんが、妙案とばかりに言った。
「巻き戻しの泉」
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