21.5-7.ループ・ワールド


 運命の土曜日。


 主任が来るのは、明日。

 今日のうちに決着をつけなければならない。


「じゃあ、美雪ちゃん。お願いね」


「お任せあれー。ちゃんと約束守ってね?」


「わ、わかってるよ」


 今日、手伝ってもらう代わりに、店のほうの手伝いを約束した。


 では、さっそく……。


 ……と言いたいところだけど。


「どうしてきみも?」


「取材でーす!」


 なぜか眼鏡ちゃんも同行することに。


「……大丈夫なの?」


「うーん。まあ、大丈夫じゃない?」


 テキトーやなあ。

 まあ、ここはモンスターいないしな。


 ダンジョン『ループ・ワールド』。

 東京近郊にある、その筋では有名なダンジョンだ。


 受付を済ませると、おれたちは転移装置の前で円陣を組む。


「では、今日の目的を確認します」


 美雪ちゃんが仰々しく告げる。


「目標は、このダンジョンの下層にある『巻き戻しの泉』。それにこのカーペットを投げ入れて、汚れる前の状態に戻します」


「はいはーい。戻すってどういうことですか?」


 眼鏡ちゃんの質問に、おれが答える。


「このダンジョンの下層にある泉には、不思議な力があってね。壊れたものを入れると、時間が巻き戻るように元の状態に戻るんだよ」


「なにそれ、SFじゃないですか!」


「いや、サイバーチックなものじゃないけど……」


「すこしふしぎのほうです」


「あ、そう」


 相変わらずテンションが噛み合わないなあ。


「ていうか、そんな便利なもの、どうしてみんな使わないんですか?」


「あー。なんでも直せるわけじゃないんだ」


「例えば?」


「まず機械とか、紙とか、水に濡れるのがNGなものは無理。あと食べ物とか、生ものとかも無理。死んだものが生き返るってこともない」


「ふむふむ。じゃあ、なにが直せるんですか?」


「今回のカーペットみたいな布製品や、木製のものとかだね」


「それでも、すごく便利ですよね」


「まあ、二つ問題があってね」


「なんですか?」


「えーっと……」


 美雪ちゃんが呼んだ。


「ほら、マキ兄。説明は歩きながらでいいでしょ」


「あ、ごめん」


 そうやって、おれたちはダンジョンへと降り立った。


「相変わらず、気味悪いよねえ」


 美雪ちゃんが言う。


「そうだね」


 そこは薄い霧が立ち込める洞窟だった。


 ここは下層フロア。

 例の泉まで、それほど離れてはいない。


 眼鏡ちゃんが目を爛々と輝かせている。


「うおーっ! すごくホラーチックでいいですね! リビングデッドとか、出ないんですか!」


「いや、ここはモンスターがいない場所だから」


「えーっ! つまんないです、出してくださいよーっ!」


 んな無茶な。


「あれ。でもモンスターがいないなら、なにが問題なんですか?」


「……あれだよ」


 眼鏡ちゃんが前方に目を向ける。


 そこには、二つの分かれ道があった。


「じゃあ、さっそく……」


 おれたちは分かれ道を、右に進んだ。

 その瞬間、むっと濃い霧が包み込む。


 そして次の瞬間、おれたちはなぜか転移装置の前に立っていた。


「……とりあえず、右は外れか」


 眼鏡ちゃんが目を丸くしている。


「あれ。だって、いま……」


 そう、ここは間違えればループするダンジョン。


 正しい道順をたどれなければ、泉にはたどり着けない。

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