28-2.若さという因果について


 その女性は嬉しそうにこちらに駆け寄ると、おれの手を握った。


「あら、あらあら」


 こちらの顔をきょろきょろ見回しながら、手をぶんぶん振る。


「祐介くんじゃないのー」


「どうも、陽子さん。ご無沙汰しています」


 ぽかんとしている姫乃さんに、慌てて紹介する。


「あ、姫乃さん。この方は陽子さん。川島さんの奥さんで、美雪ちゃんのお母さんです」


「ど、どうも。お世話になっています」


 すると陽子さんは、今度は姫乃さんの手を握る。


「あらー。そんなかしこまらなくていいのよ。気軽に陽子ちゃんって呼んでくださいね」


「は、はあ」


 相変わらず若いなあ。

 言動もだけど、見た目も川島さんと同い年に見えないもんなあ。


「あら。もしかして、あなたが例の?」


「れ、例の、とは?」


「あらあらー。話は美雪から聞いてるのよ。祐介くんの彼女さんでしょ?」


「ま、まあ、はい。おつき合いをさせていただいてます」


「あらー。可愛いお嬢さんだこと。祐介くんもやるわねー」


「は、はは……」


 おれは慌てて会話を逸らしにかかった。


「それより、どうしたんですか?」


「あら、聞いてないの?」


「まあ、詳しくは……」


 予想はできるけど。


 すると彼女は、てへっと悪びれない様子で笑った。


「旅行先でちょっと遊んでたら、負けちゃったの」


 おれは手のひらをくいくいと回す仕草をする。


「これですか?」


「これですー」


 彼女は同じ仕草で応えた。


「え。なんなの?」


「パチンコです。このひと、重度のギャンブル依存なんですよ」


「あら。人聞きが悪いわ。ちょっと路銀に困ったから増やそうとしただけよ」


「差し押さえになるまでやるのは普通じゃありませんから!」


「だって、慶次が回してきたんだもの。勝ったって思うじゃない?」


 知らんがな。


「……なんか、すごい方ね」


 姫乃さんの言葉に、おれはため息をつく。


「まあ、これでも落ち着いたほうですよ。昔は海外のカジノ荒らし回って裏で手配書が出てたこともありますからね」


「……よく無事だったわね」


「まあ、川島さんといっしょに世界を飛び回ってた凄腕のハンターですからね。世界大会の賞金とかでうまくやったって聞きましたけど」


「なんか、あまり想像できないわ」


「……まあ、そうしょうね」


 しかし、案の定だった。


「で、この店が差し押さえになったと?」


「そうなのよー。参ったわあ」


 ……川島さんがすごい顔で睨んでいる。


「ど、どうするつもりですか?」


「あ、それなんだけどー」


 するとそこで、美雪ちゃんが手を取ってきた。


「マキ兄! お願い、手伝って!」


「だからなにを?」


 すると彼女は、涙ぐみながら言った。


「ダンジョンにある宝箱を探しに行くの!」


 ……ほう?

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