11-6.vsグリフォン


「よし、準備はいいね」


 ピーターが一同に向かって言った。

 やつの格好を、しげしげと見回す。


「……また、ずいぶん増えたな」


「まあね」


 背中には双剣。

 腰には五本の短剣。

 そして袖や裾のいたるところには小型ナイフ。

 ブーツにもシークレット・ソードが仕込まれている。


「動きづらくないか?」


「問題ないよ。一撃さえ入れば、ぼくの勝ちだ」


 ピーターのウルトラ・スキル。


 名称を『ラピッド・ファイア』。


 常時発動型のスキルで、その機能は単純明快。


『武器を装備するほど、スキルの攻撃力が増加する』


 超攻撃特化のハンターで、最高増加率から放たれるスキルはドラゴン族の皮膚を貫く。


 欠点は、まあ、攻撃力と機動力が反比例の関係にあるところか。


「今回、ぼくが使うスキルは詠唱が必要だ。アレックスの『アンダーソン』の防御と、マキノの『全治癒』が鍵になる。キャロルたちは、全力でふたりをバックアップしてくれ」


「了解」


 うなずき合うと、ピーターたちが次々に光の渦に飛び込んでいった。

 そのあとに続こうとしたとき、アレックスが袖を引いた。


「わたしは本気よ」


「…………」


 おれは無言のまま、渦に飛び込んだ。


 青い光の奔流から、やがて『風の谷』に降り立つ。

 すかさず『オーバー・エコー』でグリフォンの位置を確認する。


「やつは最下層だ」


「オーケイ。じゃあ、招待状を出そう」


 キャロルが弓を引く。

 そこから放たれる矢が、上空に向かって飛翔した。


 そして、爆発した。


 その振動は風の谷を揺らした。


「グリフォンが動いた。こっちに来る」


「よし。みんな、位置につけ」


 おれとアレックスが前衛。

 ピーターが最後尾。

 その間の連携役がキャロルとマイク。


 ピーターは双剣を構え、じっと瞑想に入る。


 そのとき、グリフォンが縦穴から飛び出した。

 やつはおれたちの前に立つと、その巨翼を広げる。

 逆巻く風がやつの翼に吸収され、その魔力を増幅させていった。


「アレックス!」


「アンダーソン、防御形態ディフェンス・モード!」


 白銀の騎士が現れる。

 その鎧が分解すると、青い霧のようなものが姿を現した。


 鎧がひとりでに動き、おれたちを守るシールドのように展開する。

 その青い霧に向かって、おれは補助スキルを発動した。



 ――五重の身体強化『タイラント・ブースト』



 青い霧が強化され、同時に鎧も肥大化する。

 それに向かって、グリフォンがウルトを放った。


「衝撃に備えろ!」


 その強大な力を、アンダーソンが真正面から受け止めた。

 鎧の各部位に隙間をつくることで、衝撃を軽減する。


 しかしそれでもレジェンドの攻撃。


 アンダーソンの鎧は、その威力の前に砕け散った。


 スキルの衝撃に、おれたちの身体が飛ばされる。

 それぞれキャロルとマイクに受け止められた。


「マキノ、いい働き」


「あとはリーダーに任せな」


 そして、風が止んだ。

 グリフォンが緩慢な動きで、翼を閉じようとする。


 しかしそれよりも早く、後方のピーターが跳んだ。



 ――斬撃スキル『飛燕斬』!

   +

 ――炎スキル『火焔龍』!



 右の剣から放たれる遠隔斬撃スキルに、左の剣から発生した炎をまとわせて敵を攻撃するピーターの決め技ラスト・アタック


 それは『ラピッド・ファイア』により最大威力にまで強化され、グリフォンの左の翼を切り裂いた。



『――――ッ!?』



 大量の羽が散った。


 翼を落とすには至らず。

 しかしそのダメージは深刻で、やつは無我夢中に穴のほうへと逃げようとする。


「よし!」


「いまのうちにエレメントを……」


 おれたちは階段へと向かう。


 しかしそのとき、確かにその声が耳に届いた。



『クルル……』



 ハッとしたときには、すでに遅かった。

 音もなく伸びたのは、ライオンの形をしたグリフォンの尻尾。


 それがアレックスの背後へと迫っていた。


「アレックス!」


 おれは思わず、彼女を突き飛ばした。


 その尻尾は空を切り――そしておれの脚をからめとった。


 みんなが、目を見開いておれを見ている。

 それは一枚絵のように現実味がなく、まるで時が止まったような感覚だった。


 グリフォンが縦穴に落下した。

 それに引きずられるように、おれもまた縦穴へと投げ出される。


 そして一瞬ののち、おれの身体は真っ逆さまに落下した。


 ――やっちまった!


 おれは剣を構えると、グリフォンの尻尾を斬りつける。

 それにひるんだ尻尾が離れた。


 一か、八か――。


 身体にブーストをかける。

 そして『十重の武装』を展開させると、おれは全力のスキルを発動した。



 ――十重の治癒『全治癒ワイルド・ヒーリング



 最高出力の治癒スキル十倍重ねによる超高速蘇生術。

 落下の衝撃で死ぬよりも早く、この身体を再生できれば――。


 ほの暗い谷の底が、まるで怪物の胃袋のようにおれを待ち構えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る