16-4.方言描写がぬるいのは仕様です


「で、出禁ってなによ――――っ!」


 主任が吠えた。


 おれは額に手を当てる。


「……だから丸く収めようとしたのに」



 …………

 ……

 …



 ――翌日のことだ。


 おれたちは予定通り、ザビエル討伐のためにダンジョン『叫びの埠頭』を訪れた。

 四角い研究施設のような外観で、実際ここで働いているのは製薬会社の社員たちがほとんどだ。


 普段は立ち入りが禁止されている場所だけど、今日だけは門の受付にハンターたちが並んでいる。

 そして登録申請をするときに、おれたちはスタッフから止められた。


「申し訳ございません。『疾風迅雷』の申し出により、あなた方のクエストへの参加は受け付けられません」


「……わかりました」


 主任がおれの耳をぐいぐい引っ張る。


「ど、どういうことよ!」


「えーっと。じゃあ初めから説明しますね。このダンジョンは、ハントをする場所じゃないんですよ」


「え。どういうこと?」


「ほら、東京の『ガリバー』にもダンジョンがあったじゃないですか」


「あぁ、あの装備の試着をしたところ?」


「そうです。ここのダンジョンも、普段はモンスターのいない『空迷宮』なんです」


「じゃあ、ここはなにをしているの?」


「それは見た通り、製薬会社の研究施設です。このダンジョンは、世界でも珍しいマンドラゴラの自生する場所なんですよ」


「マンドラゴラって、今回の報酬?」


「そうです。万能薬として有名ですけど、ここでは不妊治療薬として生産されています」


「それが、わたしたちの出禁とどう関係があるの?」


「こういうところでは、マンドラゴラ採取のために普段から契約しているハンター組織があるんですよ。ギルドと呼ばれるものですね。それが『疾風迅雷』なんです」


「ふむふむ?」


「で、たぶん昨日、主任が飲み物ぶっかけた男たちが、その末端だったんでしょう。それで、恥をかかせたおれたちを出禁にしたってところです」


「先に喧嘩を売って来たのはあっちじゃないの! そんなの許されるべきじゃないわ!」


「こういう地域主催のクエストでは、契約ギルドがクエストを仕切りますからね。主催者も、遠方から来た観光気分のハンターより、普段から契約のあるほうを優先します」


「そ、そんなあ……」


 主任はがくっとうなだれる。

 楽しみにしてたのはわかるけど、やってしまったのはしょうがないしなあ。


「ど、どうにかならないの?」


「なりませんよ。今日のところは帰りましょうか」


「で、でもでも……」


 眠子が眠そうに目をこすった。


「いいじゃーん。そんなおもしろいものじゃないよー?」


 そう言って、大きな欠伸をする。

 引きこもりというだけあって、目の下にはくっきりとしたクマができている。


「まあ今回の目的は、眠子に魔法スキルの監督をしてもらうということだったんで。昨日の『ラビリンス・テンボス』でやりましょう」


 と、おれたちが施設に背を向けたときだった。


「ま、牧野どん!」


 振り返ると、施設の前に停まった大型バスから一人の屈強な男が現れた。


「あ、西郷さん!」


「いやあ、ほんに牧野どんじゃあないでごわすか!」


 ばしばしと肩を叩いてくる。

 痛い、マジで痛いからやめてください。


 と、主任と眠子が呆気にとられた顔で見ている。


「あー。この方は、南九州を仕切るギルド『薩摩連隊区』の総長で、ハンドルネームを西郷さんです。現役のころにお世話になりました」


「いやいや、世話になったのはおいどんのほうでごわす。とんと名前を聞かんと思ってましたが、まさかこげなとこでお会いできるとは!」


「あー。実はしばらく休止してまして」


「ほう! しかしここにおるっちゅうことは、今日のクエストに?」


「まあ、そのつもりだったんですけど」


「おや。どうしました?」


「実はかくかくしかじかで、今日は出禁にされたので帰るところでした」


「それはけしからんでごわすな!」


 彼はなにかを考えていたが、やがて妙案とばかりに手を叩いた。


「ならば、うちのギルドメンバーとして入るというのはどうでごわしょう?」


「え。いいんですか?」


「よかよか。こんクエストはうちと『疾風迅雷』の連名主催でごわすからな」


 はっはっは、と笑いながら、彼も受付のほうへと歩いて行った。


「主任、よかったですね」


「え、えぇ。……あんた、すごいひとと知り合いなのね」


「まあ、たまたまですよ」


 主任がなぜか、不思議そうに西郷さんの背中を見つめている。


「……牧野。あのひと、誰だか知ってるの?」


「え。だから西郷さんですよ?」


「あぁ、そう」


 主任がなぜか、微妙な顔でうなずいた。


 ……なんだ?

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