39-4.また変なところで切っちゃった


「どおりゃああああああああああああああああああああ」


 主任の大剣が、デスポイズンフロッグを真っ二つに切り裂いた。

 その巨大なカエルが、ぶよぶよと崩れていく。


「なによ。手応えのないやつねえ」


「あ、主任! そいつから離れ……」


「え?」


 フロッグの流れ出した体液が、ぼこぼこと震えていく。


 ――ぶっしゅうううううううう!


「きゃあ!」


「主任、こっちへ!」


 おれは体液から発生した霧に手を向けた。


 ――補助スキル『プロテクション』発動!


 おれたちの周囲を、魔力のバリアが包む。

 それは霧を遮断し、その効果を中和していった。


「な、なに、これ?」


「弱体効果のある毒素ですね。これを吸い込むと、しばらく身体の動きが鈍くなるんです」


「はあ。びっくりしたあ」


 その霧が収まると、おれたちはフロッグからモンスター核を回収した。


「さて。まだ時間ありますけど、どうします?」


「せっかく中層まで来たんだから、もうちょっと見て回りましょうよ」


「そうですね」


 今日はもう遅い時間だから、ここらのモンスターも少なくなっているな。

 しばらく散策していると、主任がふと言った。


「あの企画はどう?」


「あー、笹森さんと組んでるやつですか?」


「そうそう。あの子、うまくやれてる?」


「えっと……」


 うーん。正直に言うのも、陰口みたいでいやなんだけど。


「あんまり、合わないかなあって」


 主任が苦笑した。


「あの子、融通が利かないからねえ」


「真面目だし、実際、おれよりは成績いいんで、なにも言えないんですけど」


「あんたも相変わらずねえ」


 会社とは成績を出してなんぼ。

 そうなると、こればっかりはなあ。


「でも、彼女から周りに壁つくってるのは感じますね」


「確かに、そんな感じかしら」


「おれはともかく、みんなにもあんな態度だと、ちょっとまずいと思うんですけど」


 今回、おれが回されたのは、もしかしなくても相沢さんが拒否したからだろう。

 この半年で、同じような噂がいくつかある。

 その上、岸本のように彼女からNGを食らっているひとだっているはずだ。


「……このままだと、完全に孤立しますよ」


「…………」


 というか、すでにその気配はある。

 あの性格はもちろん、男性限定というわけではない。


 笹森ちゃんが他の女子社員といっしょにランチとっているの、見たことないし。

 岸本から聞いた話では、こっちに移ってきて早々、総務のお局さまと一戦やらかして、女子の間でも干されてるらしいからな。


「……そういえば、あの子、主任のことリスペクトしてますよね」


 主任がぎょっとする。


「な、なによ、それ」


「いや、みんな意識してるって言ってますよ」


 彼女は小さなため息をついた。


「向こうにいたとき、わたしが指導係だったからねえ」


「あー、なるほど」


 二人とも本社からこっちに経験積みに来てるようなもんだからなあ。


「主任から少し、みんなに合わせるように指示できないんですか?」


 すると主任は、少し考えて言った。


「……できないわね」

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