11-4.昔日のこと
あれは大学入学の前、プロ試験に参加したときのこと。
あのころはまだ、ハンター協会も現在ほど規模の大きなものではなかった。
だから実技試験をするための場所はアメリカしかなく、アレックスとはその会場で出会った。
師匠から単身で異国の地に送り出され、おれはたいそう参っていた。
英語はみっちり仕込まれていたので苦労はしなかったが、やはり食事が合わないのは不調の原因となるらしい。
そんないらいらがピークに達し、試験のために組んだパーティメンバーとは衝突を繰り返していた。
そこに入ってきたのが、現地の魔具技師見習いの女性だった。
「ハイ。わたしはアレックス」
「……どうも。おれはマキノ」
魔具技師とは、ダンジョン用のアイテムを開発するサポーターだ。
そんなやつが、なぜプロの免許を?
はっきり言って、プロ免許を取るだけならそれほど難しくはない。
それは結局のところ『自分でダンジョンに潜れる権利』と『自分でパーティを組む権利』を得るだけのものだ。
まあ、箔付のためだろう。
そんなやつに、足を引っ張られるのは御免だった。
そしてその日の試験も、おれはひとりで先行していた。
他の連中は、後方でひいひい言いながらやっとついてくる。
こんなもので、やっていけるもんか。
そう思っていると、なんとそのアレックスというやつはひょいひょいと並んできた。
「あなた。さっきからひとりで先行しすぎよ」
「問題ないだろ」
「ダンジョンでは、連携を取れないひとから死んでいくわ」
「…………」
おれは上から目線で偉そうに説教を垂れる彼女に向いた。
「おれより弱いやつと組む気はない」
「あら、そう」
そう言うと、彼女は右腕を向けてきた。
その手首の腕輪が青い光を放つと、彼女は
「――おいで、『アンダーソン』!」
途端、目の前に白銀の甲冑をまとった巨大な騎士が出現した。
そいつは盾を構えると、おれの頭上から思い切り振り下ろす。
――ドカンッ!
その力に圧倒されて、おれは身動きひとつ取れなかった。
「どう? これでもわたしは弱いかしら」
「…………」
結局、アレックスはその行動のせいで大幅な減点を食らい、その年はプロ試験を落ちることになる。
そして一応、合格したおれは帰国し、師匠とたもとを分かって独立した。
その一年後――。
「あ、マキ兄。ちょっとお願いがあるんだけど」
「なに?」
「今度、海外のプロハンターチームがうちのダンジョンに来るの。お父さんが案内をするつもりだったんだけど、ぎっくり腰やっちゃってさ。代わりに潜ってくれないかってさ」
「……いいけど」
そして当日。
そのチームと顔を合わせたとき、メンバーのひとりを見て驚いた。
「あ……」
「あら、あなた!」
――それが、アレックスとの再会だった。
そのクエストが完了すると、打ち上げの席で彼女が言った。
「ユースケ。ずっとソロでやってるの?」
「まあ、日本はハンターが少ないから」
「うそ。どうせあなた、他のメンバーと協調できなくて抜けていくんでしょ?」
「…………」
図星だった。
「じゃあ、わたしと組みましょう」
「え……」
「わたし、まだしばらくは日本でやろうと思っているの。それが終わるまででいいから」
「…………」
おれが返答を迷っていると、彼女はいたずらっぽく笑った。
「それとも、自分より強い女と組む気はないかしら?」
「うぐ……」
おれはその挑発に乗る形で、彼女とパーティを組んだ。
それからピーターや寧々たちが加入して、気がつけば実績も重なっていった。
海外のプロチームなんかも見に来て、おれたちは期待の新星なんて呼ばれることになる。
すべては順調だった。
アレックスが、カンガルーを開発するまでは。
それから一年――。
おれと彼女の距離は、自然と近くなっていった。
彼女もおれのことを思っているのは知っていたし、おれもそれは同様だった。
でもモンスターハントは危険だ。
もし彼女を優先するあまり、他のメンバーに大きな事故でも起こったら。
そう考えると、どうしても最後の一歩を踏み出すことができなかった。
ある日、彼女に聞いたことがある。
「どうして魔具技師を?」
彼女のウルトラ・スキル『アンダーソン』は、モンスター核の魔素によって再現したモンスターを手下として使役するものだ。
もしそれを本気で極めれば、おそらくトップクラスのハンターになれるに違いない。
それでも彼女は、頑なに魔具技師を志していた。
「……兄さんがね、ダンジョンで行方不明になったの」
「…………」
「いつかいっしょに世界のダンジョンを回る約束をしていたんだけど……。でも、もう心の整理はついたわ。そんな悲しそうな顔をしないで」
でも、それで思ったことがあるの、と彼女は言った。
「もし、もっとサブウェポンが充実していたら? 剣や鎧みたいな戦うものばかりじゃない。ハンターを危機から救うようなアイテムがあれば、兄さんみたいなひとがいなくなるかもしれない」
「…………」
おれは彼女の力になりたかった。
そして思いついたアイデアは、これから自分の首を絞めるだろうことは容易に想像がついていた。
「――治癒スキルを保管しておけるサブウェポンがあればいい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます