30-3.シームーン・アイランド


 ダンジョン『シームーン・アイランド』。


 都内にあるダンジョンのうち、完全な観光施設として運営するものだ。

 見どころはなんといっても、その水中散歩アトラクション。

 入場するときに特殊なスキルを施されて、一般人でもまるで水中を歩くかのようにダンジョン内を散策できる。


「というか、いままで来なかったのかい?」


 確かにハンターにとって、ここは外せない場所だ。


「いや、行ってみようかって話は上がるんだけどね」


「なら、どうしてさ?」


「いや、ここってアレだろ?」


 ピーターは合点がいったようだった。


「フーム。なるほどね」


 このダンジョンでのルールで有名なもの。


『モンスターのハント禁止』


 モンスターは生息しているが、どれも人間を襲うタイプのものではない。

 そのために、このダンジョンでは一切の武器の持ち込みが禁止されている。


 ここのモンスターはハントするものではなく、鑑賞するためのもの。

 なので、残念ながら姫乃さんの好みには合わなかったのだ。


「でも、新種とかが出て襲ってきたらどうするのよ?」


「入場するときにウェットスーツを着るんですけど、それに仕掛けがあるんです。制限時間を過ぎたり、モンスターに襲われそうになると『エスケープ』が発動して、自動的にこっちに戻るようになっています」


「あぁ、そういうこと……」


 このダンジョンでの事故は、過去三年で十数件のみ。

 それも入場者同士のいざこざなので、実際はモンスターによる被害はゼロだ。


「そんな超優良ダンジョンに、まさかの怪異現象とはねえ」


 姫乃さんがびくっとなる。


「あ、あんた、わざと言ってんでしょ!」


「いや、無理についてきたのは姫乃さんじゃないですか……」


 そこでピーターが手を叩いた。


「はいはい。喧嘩はやめて。そろそろ着くよ」


 おれたちを乗せた車が首都高から降りる。

 それと同時に、水族館のような青い建物が視界に入ってきた。


「わあ」


 休日ということもあり、なかなかの賑わいを見せている。

 おれたちはそのまま、裏口のほうへと車をつけた。


「先方は?」


「フーム、担当者を寄越すって言ってたんだけどね」


 と、そこへ施設の裏口から、ひとりの女性スタッフが現れた。

 ポニーテールに帽子をかぶり、可愛らしいモンスターを描いたオリジナルのシャツを着ている。


「お待ちしていました!」


「協会から依頼を受けたピーター・バークです。館長は?」


「こちらです。あ、そちらのお二人は?」


 ピーターはおれたちを見た。


「ぼくの助手です。今日は彼らも潜ります」


「待てこら」


「おいおい、怒るなよ。そうじゃなきゃ、タダで潜れないぜ?」


「…………」


 姫乃さんを見ると、こちらは平然としたものだ。


「姫乃さんはいいんですか?」


「あら。肩書なんてなんだっていいじゃない」


「……ソウデスネ」


 おれはなんともしっくりこない気分でうなずいた。


「さあ、行こうか」


 こうして、おれたちは『シームーン・アイランド』へと足を踏み入れた。


 そのとき、おれは気づいていなかった。


 ――館内の窓からこちらを見る、その視線のことを。


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