10-6.調査団、風の谷へ
「マキノの情報では、ダンジョンの入り口にレジェンド・モンスターがいる可能性がある。遭遇した場合、交戦はせずにエスケープで撤退。各自、カンガルーの準備は怠るなよ」
トイレの便器に発生した青い光の渦。
それを前に、ピーターが言った。
「今回は混成パーティだ。『パートナー』は、キャロルとマイク、マキノとアレックス、そしてぼくがソロだ」
「お、おい……」
「問題ないだろ? きみたちはパートナーだったんだ。互いのことはよく知っているはずさ」
「まあ、そうだけど」
アレックスを見ると、彼女は感情の読めない表情でうなずいた。
「わたしはそれで問題ないわ」
「よし、じゃあ行こう。未知なる冒険が待ってるぞ!」
ピーターが光の渦に飛び込んだ。
おれもそれに続く。
青い濁流に飲まれて流され、やがて視界が開けた。
巨大な縦穴式のダンジョン。
おれは周囲を見回した。
あのグリフォンは、おれたちを見ているのか。
やつが迷彩スキルを使うというなら、まず場所を看破する必要がある。
「マキノ。頼む」
「わかってる」
おれは右手を広げた。
そこから十色の珠が発生し、おれの周囲を旋回する。
――ウルトラ・スキル『
それに魔力を込め、探知スキルを放った。
――七重の探知『オーバー・エコー』
その珠から放たれた魔力の波が、この風の谷に反響する。
ダンジョンの一番下に、巨大なモンスターの影を探知した。
「……グリフォンは最下層だ。そして『エレメンタル』は中層部にある」
ピーターが叫んだ。
「
おれの肩を叩きながら、嬉しそうに笑った。
「きみのそのスキルは本当に素晴らしいよ。これがB+なんて協会のやつらはわかってないな」
「環境には適応していない」
「それだけで評価は決まらないさ。よし、中層部のエレメンタルを確保しよう」
意気揚々と階段を下りるピーターたちに、おれはため息をついた。
変に持ち上げられるのは性に合わないんだけど。
と、アレックスがおれを見ていた。
「どうした?」
「……いいえ。行きましょう」
そう言って、彼女も階段を下りて行った。
…………
……
…
再会した場所からほど近いラーメン屋。
寧々さんの言葉で、ここで昼食をとることになった。
「はあ!? 牧野も調査団としてダンジョンに潜ったあ!?」
彼女がテーブルを叩いて立ち上がった。
周囲の目が一斉にこちらを向く。
「あの、他のお客さんに……」
「あ、すまん」
寧々さんは座り直したとき、カウンターの向こうからラーメンが届いた。
「へい。ラーメンの方?」
「あ、わたしです」
それを慌てて受け取る。
「こちらのメガ盛りチャーシュー麺は?」
「わたしー」
寧々さんが、自分の顔よりも大きなどんぶりを受け取った。
……この小さな身体のどこにこれだけの量が。
「……寧々さん。こっちには?」
「あぁ、一昨日かな。本当はもう少しあとを予定してたんだけど、こんなメールがきてな」
「これは……」
わたしは差し出されたエア・メールを開いた。
『Hey! 愛しい愛しいマイ・リトル・ガール! きみに会えない日々はまるで永遠の牢獄に幽閉されているような気分だよ! あぁ、きみはこの暗闇でぼくの心を照らす一筋の光! きみに再び会える日を待ち望んでいる! だから頼むから電話には出てくれ。着信拒否もやめてくれ。番号も変えたら教えてほしい。あ、ところで東京の未開拓ダンジョンの調査団に選ばれたんだ。興味があったら、きみもいっしょに潜らないかい?』
差出人、きみのピーター。
「…………」
「そんで、予定を繰り上げて来たってわけ。誤解するなよ。あのキモいあご髭に会うためじゃない。未開拓ダンジョンに興味があったんだ」
「は、はあ」
彼女はパチンと箸を割った。
「……あいつらには会ったのか?」
「えぇ、昨日。ピーターさんとキャロルさんと食事を」
「キャロル……。あぁ、赤髪の
「射手?」
「弓矢使いのこと」
寧々さんはずるずるとラーメンをすすった。
「それでメンバーは?」
「えーっと。牧野とピーターさん、キャロルさんと、マイクさんっていう鑑定士、あとアレックスさんっていう……」
――カランッ。
寧々さんがレンゲを取り落とした。
目を見開いて、じっとわたしに視線を向けている。
え、どうしたんだろう。
「あ……っ!?」
彼女はわなわなと口を震わせた。
「アレックスがあ!?」
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