27-6.スカウト


「ふっざけんなし! あのまま生き埋めとかマジ勘弁!」


 ハナが吠えた。


「そうですよ! ダンジョンでは突発的な行動は慎んでください!」


 佐藤さんもぷんすか怒っている。


 おれたちはあのあと、やっとこさ脱出に成功した。

 まさか、おれたちが総がかりでやっと壊れるなんてなあ。


「まあ、これでこの壁の強度が実証されたということで……」


「前向きすぎっしょ!」


「牧野さん! 彼女だからって甘すぎませんか!」


 すみません。


 あれ。なんでおれが怒られてるの?


「……ていうか、姫乃さん。相変わらずリカバリー下手ですね」


 リカバリーとは、操作型の魔法スキルなどで動かしたものを元に戻すことだ。

 いまの例だと、壁の魔力を抜き取ることができずに土に戻せなかったことになる。


 自分の魔力を対象から抜き取るのは、これでけっこう繊細な作業だ。

 この三か月で皐月さんからずいぶん仕込まれたみたいだけど、こればかりは向き不向きがあるからな。


 ほんと、眠子のやつはなんでもできるから教えやすかったな。

 ……まあ、そこが憎らしい部分でもあるんだけど。


「しょ、しょうがないでしょ! ほんのちょっと魔力を込めただけで、あんなに動くとは思わなかったもの!」


「ここはモンスターが少ないぶん、魔素の濃度が高いですからね。普通のダンジョンの感覚でやると、事故につながりやすいので気をつけてください」


「……うー」


 恨みがましい顔で見られるが、今回ばかりは擁護できないからなあ。


「まあ、とりあえず蝶の場所に戻りましょうか」


 おれたちはエレメンタルのある空洞に歩いて行った。

 その途中、うしろから袖を引かれる。


「……牧野さん」


 振り返ると、佐藤さんが気まずそうにこちらを見上げている。


「なに?」


「えっと、その……」


 なんだ?


「さっきは、その、ありがとうございました」


「さっき?」


「あの、蝶から助けていただいて……」


「あぁ、そんなこと別にいいよ」


「…………」


 しかし、どうにも納得していない顔だ。


「どうしたの?」


「……牧野さんって、ダンジョンに潜ってどのくらいなんですか?」


「え? えーっと……」


 改めて言われると、どうだっけ。

 確か高校に入ってすぐに皐月さんに拾われたから……。


「……十年くらい、かな」


「え……」


「まあ、しばらくやってなかったから、実質的には五、六年くらいだけど……」


「…………」


 佐藤さんは緊張した様子で聞いてくる。


「レベルは?」


「……あー。確か、79くらいかな」


 彼女はぎょっとした。


「す、すみませんでした。さっきは、その……」


「あ、あー。いいよ、いいよ。気にしてないし、それに佐藤さんのほうが正しいからさ」


 まあ、さすがに素人と言われたのはグサッときたけど。


 微妙な気まずさの中、彼女が聞いてくる。


「でも、それならどうして会社勤めなんて……」


「なにか変?」


「だって、79ってプロ級じゃないですか」


「……まあ、いろいろあってね。いまは趣味でやるくらいだよ」


 さすがに、そこまで詳しく説明することはないからな。


「じゃあ、いまはどこのギルドにも入ってないんですか?」


「え? そうだけど……」


 すると彼女は、どこか決意を込めた目で見てくる。


「……あの、牧野さん」


「なに?」


「……よかったら、わたしのギルド入りませんか?」


 ――なぬ?

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