27-5.イニシアチブをとる


「……どういうこと?」


 空洞から必死に逃げ出したあと、別の場所で円になった。

 佐藤さんが、地面にがりがりと図を描きながら説明する。


「あのモンスターは、過剰分裂のウルトを持っています」


「じゃあ、いくらでも増えるってこと?」


「はい。あのモンスターはイモムシ――つまりコモン状態で分裂を繰り返して、それぞれがレアのサナギ、エピックの蝶へ進化するという生態を持ってます。本来は他のモンスターとの生存競争に勝つための手段なんですけど、ここにはあの一種しかいないので次から次に増えていくんです」


「でもそれだと、もっと蝶がたくさんいるんじゃないの?」


「ここがあのモンスターの特殊性なんですけど、あれはすべてが共通の思考のもとに活動しているんです」


「それって、意識がつながってるってこと?」


「まあ、そんな感じですね。つまりあのイモムシすべてがオリジナルで、すべてがダミーということです」


「……エピックを倒したあとに次のエピックが現れるのは、そういうことか」


 おそらく、レア以上に進んだ場合は分裂できないとうことだ。

 だからコモン状態の個体も保存しているのだろう。


「あれを倒すには、分裂を超えるスピードですべてを焼き払うしかありません。でも、ここまでダンジョンに広がっては不可能です」


「じゃあ、手の打ちようが……」


 そう言っているうちに、よじよじとイモムシが腕を上ってくる。


 とりゃ。


 剣でぺしっと叩いて追い払う。

 ぴきーッと鳴きながら、そいつは逃げていった。


「……まあ、おれたちの目的は魔晶石だ。それさえ集めればいいんだけど」


「でもおー。あいつがいるなら無理じゃねえー?」


「そうだよなあ」


 現実的な手段としては、羽化しなくなるまで蝶を倒し続けること。


 でもなあ。

 これまでの三匹にあれだけ苦戦するのに、どうしろっていうんだよなあ。


「……ねえ」


 そこでふと、姫乃さんが手を上げる。


「どうしました?」


「羽化する前のサナギって、倒せないの?」


「え?」


「だから、サナギの状態では倒せないのかしら?」


「…………」


 佐藤さんに視線が集まる。


「でも、サナギに攻撃をくわえたら、一斉に羽化する可能性が……」


「じゃあ、動かすだけでいいわ。蝶を引きつける間に、サナギをぜんぶ外に出してしまえばいいのよ。そうすれば、羽化しても攻撃してこないでしょ?」


「……いやいや! そもそも、どうやって止めるんですか!」


 理屈としてはその通りだ。

 でも、ここはダンジョン。

 ご丁寧に鍵付きのドアなんてない。


「あら。そんなの簡単よ」


「え?」


 言いながら、彼女は大剣を抜いた。

 それを構えると、ドスッと地面に突き立てる。


 ――ゴゴゴッ


 途端だった。

 微かな揺れとともに、地面がもこもこと盛り上がった。


 ――ズンッ


 それは大きな平たい形になると、洞窟をふさぐように倒れ掛かる。

 そして見事に蓋をしてしまったのだった。


「あ、あー……」


 ……そうだったな。


 佐藤さんが口をあんぐり開けている。


「な、な……」


「あー。このひと、土属性の魔法スキル使えるの」


 姫乃さんはどや顔でポーズなんか取っている。


「……で、姫乃さん」


「なに?」


「どうやって、ここから出るんですか?」


「…………」


 彼女は、ふっと髪をかき上げた。


「……考えてなかったわ」


 おい。

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