主任、即席パーティでは協調性が命です

27-4.たまには手に汗握る感じで


 確かに佐藤さんの言う通り、気を引き締めなければいけない。

 きっと敵も、おれたちを迎え撃としているに違いないのだ。


 と、警戒してみたものの。


「……動かないわね」


「そうですね」


 蝶はおれたちに気づいていないのか。

 さっきと同じ体勢で、ゆらゆらと羽を揺らしていた。


「……このまま魔晶石を拾って帰ることはできないのかしら」


「いえ。あいつの正体がわからない以上、下手に動くのはまずいです」


 目を向けると、佐藤さんがため息をついた。


「はーいはい。ちゃんと仕事しますよーっと」


 言いながら、そっと腰のポーチに手を入れる。

 その指に挟まれていたのは、ごく小さな縫い針のようなものだった。


 その針に魔力を込めると、短い動作でそれを投げた。

 一直線に飛空すると、蝶の羽に刺さる。


「よし! じゃあ、鑑定を……」


 と思った瞬間だった。


 もう片方の蝶が飛び立った。

 それは昨日のように、佐藤さんへと飛来する。


「まずい!」


 おれは『十重の武装』を展開した。


 ――五重の強化『タイラント・ブースト』発動


 脚にスキルを込めて跳躍する。

 蝶の進行方向に割り込むと、その攻撃を剣で受け止めた。


 非力な蝶の動きは止まる。

 しかし、それでは終わらない。


 ――ぶわっ!


 金色の鱗粉が噴き出した。

 おれはそれをもろに浴びると、そのまま地面を転がった。


「……くそ!」


 途端、身体が一気に重くなる。


「佐藤さん!」


「わ、わかってます!」


 ――鑑定スキル『アナライズ』発動


 佐藤さんの仕掛けた針から、電磁波のような魔力のルートが生まれる。

 その魔力を手のひらで受け止めながら、彼女は蝶の解析をスタートさせた。


「どれくらいかかる!?」


「ご、五分くらいです!」


 くそ、やっぱりエピックを簡単には鑑定できないか。

 その間に、針を仕掛けたほうも攻撃態勢に入った。


「姫乃さんとハナは、佐藤さんの護衛に回ってくれ!」


「わ、わかった!」


 おれに鱗粉を浴びせた蝶はぐるりと迂回すると、再び佐藤さんへと攻撃を仕掛けようとする。


 ――防御スキル『挑発』発動


 蝶たちの意識を、こちらへと向けさせる。

 目論見通り、二匹の蝶がこちらへと飛来した。


 おれはその攻撃を避けながら、そのモンスター核を探す。

 その鋭い脚の爪が、腕と足を掠めていく。


 くそ、昨日の疲労も抜けきっていないのに……。


「祐介くん!」


「近づかないでください! 全滅したら意味ないんですよ!」


 姫乃さんが、大剣を構えてじれったそうに振り返る。


「まだなの!?」


「わかってますよ! 集中が途切れるので、ちょっと黙っててくれませんか!」


 その間にも、着々と解析が進んでいく。


 とはいえ、相手はエピックモンスター。

 いくら凄腕の鑑定士といっても、必ず成功するとは限らない。


 あとは、彼女のレベルを信じるしかないが……。


 と、蝶が羽をぶるりと揺らした。

 鱗粉の攻撃が噴き出そうとした瞬間、佐藤さんの声が響いた。



「――終わりました! その目がモンスター核です!」



 その声に、おれは腕を交差させた。


 ――補助スキル『マイン・トラップ』発動


 おれの身体に、鱗粉が吹きつけられる。

 その瞬間、腕に仕込んだ魔力が閃光となって蝶を包み込んだ。


 その光を浴びた蝶の動きが強張った。

 羽を動かせずに、そのままふらりと地面に落ちる。


「姫乃さん!」


「どりゃあああああああああああああああああ」


 彼女は雄叫びとともに、蝶へと飛びかかった。

 その剣戟が、蝶のモンスター核を両断する。


 そうして、蝶たちはそのまま息絶えた。


「……祐介くん!」


 姫乃さんから、抱き起こされる。


「大丈夫!?」


「えぇ、まあ。ちょっと身体がだるいですけど……」


 しかし達成感に浸るのも束の間、佐藤さんが叫んだ。


「急いでください! すぐ次が生まれますよ!」


「え……?」


 地面に転がっていた石のようなものがもごもご動いている。

 すぐに亀裂が走り、にゅっと触覚が現れた


 ……まったく、やれやれだ。



 逃げよ。

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