27-7.クエスト開始


「うーわー……」


 ハナがなんとも言えない声を上げた。


 三匹の蝶が、ぱたぱたと羽を揺らしている。


「…………」


 これはいけない。


 次で仕留めなければ、いよいよ埋め尽くされるのも時間の問題か。


「……じゃあ、作戦を確認します。まずおれの『オーバー・エコー』でサナギの数を確認し、それを姫乃さんとハナで外に運んでください」


「あの蝶が襲ってきたら?」


「おれと佐藤さんで止めます」


「そ、それならわたしも……」


「いえ、姫乃さんたちは運び出すことに集中してください」


「で、でも、鑑定士のひとって、あまり戦闘は得意じゃないって……」


「姫乃さん。彼女はギルドマスターですよ。それにさっき戦闘スキルについて話しましたが、あの蝶が相手ならおそらく姫乃さんよりも戦えます」


 佐藤さんが得意げに言う。


「そーそー。ここは任せてなさいよ」


 ――バチバチッ!


「……ま、まあ、始めましょうか」


 おれは『十重の武装』を展開すると、『オーバーエコー』で空洞の中を隅々まで確認する。


「……ここにいるサナギは、合計で十一体です」


「で、でも、どれかわからないわ」


 おれは手のひらに魔力を込めると、それを『エコー』の要領で空気中に放った。


 ――補助スキル『マーキング』発動


 空洞内の岩のいくつかが赤く染まった。

 これは姫乃さんたちの目にも映っている。


「なに、これ?」


「ハントの最中に、意思を疎通させるための補助スキルです。今回のように、ターゲットなどを指定するときにも使います」


「へえ。便利なものね」


「いまターゲットしたのが、岩に擬態したサナギです。姫乃さんたちは、こいつらを外に運び出してください」


「ま、待って。まだ心の準備が……」


「いや、いまのですでにやつらは反応していますよ」


 見ると、蝶の一匹が飛び立った。


 ということで。


「クエスト、スタートですね」


「あぁ、もう!」


 姫乃さんとハナが、サナギを抱えた。

 それを持って、外のほうへと駆け出す。


 もちろん意志を共有しているため、蝶がサナギを助けようと狙う。

 それに向けて、おれはすかさず『挑発』を放った。


 そいつは方向転換すると、こちらに向けて飛んできた。


 昨日からの戦いで学んだこと。

 それはこいつらが、正面からやり合うにはそれほど強くはないということだ。


 問題は、接近したときの鱗粉噴射。

 トリガーさえ把握していれば、防ぐのは難しくはない。


 で、その発動のトリガー。

 それはこちらが攻撃を仕掛ける動作を行ったときだ。


 つまり――。


 ――ズンッ!


 おれは蝶の爪を、左腕で受け止めた。

 その鋭い爪が肌に食い込む寸前、すかさず『十重の武装』を展開した。


 ――五つくらいか。


 おれは回復スキルを五つ同時に発動する。

 蝶の爪がおれの身体を刻むと同時に、その部分を癒し続ける。


 抵抗をしないおれに対して、蝶は鱗粉を出さない。

 そしてその隙をついて――。


「佐藤さん、いまだ!」


「はい!」


 いつの間にか蝶の羽に、小さな針が刺さっていた。


 ――攻撃スキル『サイレント・ショック』


 佐藤さんの指から伸びた魔力の糸を伝って、電気ショックが蝶を襲う。

 それは麻痺の効果を与え、そのスキルを一時的に使用不能にする。


「そこだ!」


 おれは剣を振り上げると、そのモンスター核を両断した。


「よし、これでいける!」


 おれたちがうなずき合ったとき、残りの二匹の蝶が飛び立った。

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