27-8.決着


「――危ない!」


 蝶の一匹が、右から旋回して佐藤さんを狙う。

 その間に割って入ると、さっきと同じように左腕を囮にする。


 ――が。


 蝶は急に方向を転換すると、ひらひらと上空に浮遊した。

 そして、再び上空をぱたぱたと飛び始める。


 まるでこちらの動きを観察しているようだった。


「くそ! なんだ、このモンスターはっ!?」


 さっきから、こちらの動きが読まれている?


 ――いや、違う。


 こちらの動きに合わせて、やつ自身の行動が変化しているのだ。


 モンスターはその習性に沿った動きしかしない。

 それはコモンでもエピックでも――レジェンドでも同じことだ。


 だからこそハンターはモンスターの習性を学び、それに沿ったハントを行う。


 だが、こいつはまるで……。


「…………」


 おれはその言葉に、ぞくりと背筋を震わせた。


 学習するモンスター。


 普通のモンスターは、ハントすればすべてをリセットされて再出現する。

 でも、こいつはいくら倒しても、その経験値は次の個体へと引き継がれる。


 もし、この考えが当たっていたら――。


「姫乃さん! まだですか!?」


「あ、あと三匹!」


「早く! 嫌な予感がします!」


「そ、そんなこと言ったって、これ、重いんだから……!」


 そのときだった。


「牧野さん!」


 ハッとして見上げると、蝶が飛来した。


「しまっ……」


 反射的に、剣でいなそうとする。

 しかしそれがいけなかった。

 そのトリガーによって、蝶の鱗粉が噴射された。


「ぐっ!」


 おれは転がりながら、そこから離れる。

 起き上がろうとするが、とうとう脚が立たなくなった。


「大丈夫ですか!?」


「来るな!」


 佐藤さんを制するのと同時に、二匹の蝶が飛びかかってきた。

 おれは腕を交差させ、顔と胴体を守るように背中を丸める。


 爪の攻撃が、おれの背中を引き裂いていった。


 ――十重の治癒『全治癒』発動!


 身体が高速で修復を始める。

 治癒の速度で、攻撃の速度を圧倒する。


「佐藤さん!」


「はい!」


 その隙に、彼女の針はすでに蝶を捉えていた。


 ――『サイレント・ショック』!


 蝶に電撃が走る。

 そのタイミングで、おれは蝶の羽を切り落とした。


 蝶は地面に落ちると、わきわきと脚を動かして逃れようとする。


「牧野さん、止めを!」


「待った。姫乃さんたちが運び終わるまで……」


 ちょうどそのとき、姫乃さんとハナが走ってきた。


「祐介くん!」


「終わったし!」


 よし。蝶は無力化したし、あとは通路に蓋をして魔晶石を……。


 あれ。

 口が動かな……。


 ぐらりと視界が歪んだ。

 ウルトの反動か?


 いや、これは、食らいすぎた――。


「祐介くん!」


 姫乃さんの悲鳴を最後に、おれの視界は暗転した。

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