9-5.これが今回の標的です


 それは真四角の部屋だった。

 暗いけど、なにかごちゃごちゃと散乱しているのがわかる。


 エコーで様子を探った。

 動いてないところを見ると、モンスターではないだろう。


「主任。おれのポーチに入ってる石を取り出してください」


「わ、わかった」


 それは小さな石だった。


「光の結晶です。それに魔力を込めてみてください」


 主任がぎゅっと握ると、それはやわらかな白い光を放った。

 それがぼんやりとではあるが、部屋の中を照らし出す。


 なにかガラクタのようなものが散乱していた。

 形状からするに、テーブルや椅子などの日用品だろう。


「……ここまで文明の跡が残ってるなんて」


「まだ新しいダンジョンってことか」


 主任が首を傾げた。


「なにがすごいの?」


「これまで先人構築型ダンジョンが発見されても、ほとんど廃墟のようなものでした。でも、これはまだ生活の匂いが残っています。大発見かもしれません」


 もしかしたら、異世界の住人がまだ近くにいるかもしれない。

 そのことは、おそらく向こうの世界でもビックニュースとして取り上げられるだろう。


「あれ、マキ兄。この机、なにかあるよ」


 見ると、部屋の隅の机に四角い紙が散らばっているのに気づいた。


「……書き物?」


「みたいだね。でも、さすがに文字は読めないな」


 まるで記号のような羅列。

 これがこの世界の文字なのだろう。


「……これ、たぶんすごいレアアイテムだと思う」


「そうだね。解読できれば、だけど」


「…………」


「…………」


 おれと美雪ちゃんは互いの目を見つめた。


 これは内容次第では、ひょっとしたら……。


「で、モンスターはどこ?」


 主任の緊張感のない言葉に、おれたちはがっくりと肩を落とした。


 ……このひと、本当にモンスターにしか興味がないんだな。


「とりあえず、もう少し奥に行ってみるか」


 もしかしたら、もっとなにか見つかるかもしれない。

 おれの身体も動くようになったしな。


 そうして歩いていくと、同じような部屋をいくつか見つけた。

 でも、最初の部屋ほど珍しいものはない。


「でも、衣服っぽい布切れもあったね」


「あぁ。あの形状からすると、人間に近いような……」


「ハア。モンスターがいなくて退屈だわ」


 もう主任だけエスケープで戻してやろうかな。

 でも、勝手にこっちに来たりしたら死ぬだろうし。


 ふと、通路の向こうに光が漏れているのに気づいた。


「あ、なにかあるわ!」


「ちょ、主任!」


 おれは慌ててあとを追った。


 そして出たのは、大きなドーム状の空間だった。


 松明が焚かれ、向こうになにかの影があるのが見える。


 あれは――。


「主任、伏せて!」


「え?」


 おれは飛び出した。

 しかしそれよりも早く、鋭い魔力の塊が主任に襲い掛かる。



 ――ギィン!



 鋭い金属の衝突音。

 主任の前に、巨大な盾を構えた美雪ちゃんがいた。


「……ふう。これで、前回の汚名返上できたかな」


 彼女はにっと笑い、主任をこちらへと突き飛ばした。


「おっと」


 おれはその身体を受け止めて、攻撃を仕掛けてきた影を見据える。


『グルル……』


 それは巨大なイタチのような怪物だった。

 ただし、その前脚は鋭い鎌のような形状をしている。


「なに、あれ?」


「カマイタチです。風属性のエピック・モンスター。レベルはおそらく、20~30ほどでしょう」


 どうやら、こいつがこの洞窟の主らしい。


 そしてやつの背後にあるものを見て、おれは目を細めた。


「マキ兄。あれ!」


「あぁ、わかっている」


 苔が覆った、古びた宝箱。

 こいつを倒せば、それはおれたちのものということか。


 主任は大剣を構えると、やる気満々の顔で言った。


「わかりやすくていいわね」

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