6-完.熱い夜


「はあーはっはっは! 見ろよ、テレビが二台あるぜ! この部屋、いつの間にこんなもん取り付けたんだろうなあ!」


「待て。テレビは一台だ。おまえの幻覚だって言ってんだろ」


 おれは顔を真っ赤にして馬鹿笑いする寧々に、酔いとは違う頭痛を感じていた。


「……ったく。珍しく飲もうとか言うから、少しは強くなったかと思えば」


「んだよ。飲みたい気分だったんだよ」


「いいけど、そんなんで大丈夫か。男と飲むとき危ないだろ?」


 すると彼女は、むっと口を尖らせた。


「……わたしが飲むのは、おまえといるときだけ」


「…………」


 まあ、こいつは酒が弱いのを自覚してるからな。

 確かに大学のときも、おれたち以外と飲んでるのは見たことなかった。


「ふうん。まあ、気をつけとけよ」


 でも男がみんな下心なしってわけじゃない。

 さすがの寧々でも、酔ってるときは普通の女の子だからな。


「…………」


 なぜか寧々が、すごい顔でおれを見ている。


「なに?」


「そ、それだけ?」


 は?


「……えーっと。あ、この酒うまいな。ここの地酒?」


 もし普通に売ってるなら、川島さんへの土産にしようかな。


「そ、そうだよ。近くの酒蔵と提携して、うちのダンジョンの地下水を引っ張って作ってんだ。ここの売店にもある」


「へえ、よかった」


「…………」


 ふと、寧々が立ち上がろうとした。


「あっ……」


 が、足がおぼつかなくてこちらにしなだれかかってくる。

 それを慌てて抱きとめた。


「おまえ、大丈夫か?」


「やべ、やっぱ酔ったかも……」


 いや、それは知ってるけど。


 寧々がちらと、おれの目を見つめた。

 うるんだ瞳が、おれを映している。


「……なんか、熱いな」


 そう言って、そっと着物の襟を緩めた。

 彼女の真っ白な肌が、ぽうっと朱を帯びている。

 その鎖骨が、くっきりと影を浮かべていた。


 おれはため息をついた。


「……おまえな。前から言ってるだろ。女なんだから、せめて身だしなみはきちんとしておけって」


 おれはその襟を閉じると、きっちりと整えた。


 はあ、まったく。

 いくら自立してるとはいえ、本当に世話の焼けるやつだな。


 するとやっぱり、寧々がすごい顔で口をわななかせている。


「お、おま、……これでも?」


「な、なにが?」


 ――ダンッ!


 寧々が突然、テーブルを叩いた。


「くそ、フラグが息してねえ。友だち期間が長すぎたんだ……!」


 なんのこっちゃ。

 

 しかし女将のくせに行儀が悪いな。

 酒がこぼれるだろ。


「ていうか寧々、おれにやってほしいクエストがあるって言ってたよな」


 すると彼女は、じとっとした視線を向けてきた。


「あー、はいはい。クエストですね。そうでした、そうでした。おまえは本当、昔からダンジョンが恋人だよな」


「な、なんだよ」


 寧々は、はあああああ、と深いため息をついた。

 そして、おれを睨んだ。


「温泉、探索」


 ……ほう?

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