32-完.つづく!


 そして一か月後。


 おれと姫乃さんは、トーナメントの会場へ向かっていた。


「いよいよね……」


「そうですね……」


 そしてやってきました。


 埼玉!


 じゃじゃーん。


 姫乃さんが吠えた。


「どうして関東圏なのよ!」


「え。近くていいじゃないですか」


「もっとこう、旅行感! わくわく感!」


「そう言われましても……」


「電車で一時間ってなによ! 気分を盛り上げるヒマもなかったわ!」


 地方のひとは大変なのに、なにを贅沢な。


「とにかく、会場に向かいますよ」


 タクシーでやってきたのは、大型ショッピングモール。

 今回のダンジョンはその近くにあるので、ひまな時間帯は便利でいいよね。


「おー。けっこう賑わってますねえ」


 いくつかの企業が合同で主催しており、賞品もけっこう豪華ということで、ざっと見ても二十組ほどがいた。

 エントリーの締め切りにまだ時間があることを考えると、これはなかなか長丁場になるのではないだろうか。


「と、そういえば、寧々たちは着いてるかな」


「あ、眠子ちゃんはもう着いてるらしいわよ」


「あー。それならいっしょにいるはず……」


 おれたちがその姿を探しているときだった。


「フハハハハア――――ッ! よく逃げずに来たと誉めてやろう!」


 うーん、先にうるさいのに見つかったかあ。


 目を向けると、利根がエントリー受付のテントの前で仁王立ちしている。


「おれに倒されるために、わざわざ来るとは物好きなやつだな、牧野センパイ! さあ、はやくエントリーするがいい!」


「おまえ、ほんと元気だよなあ」


 ていうか、どうしてこいつはおれのこと敵視してるんだろう。

 トワイライト・ドラゴンの一件は悪かったとは思うけど、なんかそれ以外の理由がありそうな……。


「フッ。しかし、どうした? もうひとりが見えないぞ。エントリーは三人一緒でなければ……」


 すごく丁寧に教えてくれるけど、生憎と「はいそうですか」というわけにはいかない。


 なぜかというと――。


「いや、それがさあ……」


 おれと姫乃さんは、目を合わせた。


「結局、おれたち最後のひとりが見つかってないんだよね」


 利根の顔が凍りついた。



 …………

 ……

 …



「はあ!? じゃあ、どうするわけ!?」


 寧々がぐいっと胸ぐらを掴んできた。


「ちょ、落ち着けよ。ひとが見てるだろ……」


 おれたちはショッピングモールのカフェで待ち合わせて、久しぶりに顔を合わせていた。


「おい、こら。眠子、おまえ知り合いにヒマなやついねえのかよ?」


「いるわけないじゃーん。そもそも、いたら寧々ちんじゃなくてそっちで組んでるってのー」


「美雪は?」


「うーん。それが、うちに通ってるひとたち、なんかのクエストに駆り出されてて、それどころじゃないみたいなんだよねえ」


「あ、そういえば皐月さんもそんなこと言ってたな。寧々、なんか知ってる?」


「あー。もしかして、わたしが受けてるやつ関連かもな。なんか最近、ダンジョンに変なモンスターが出るってことで……」


 そこでハッと首を振る。


「いやいや、それどころじゃねえだろ。おまえら、どうすんの?」


「いま主催者のほうで、病欠とかで数が合わなくなったパーティがいないか見てもらってるところ。あるいは、もともと即席パーティ狙いで来たソロのひととかな」


「ハア。ほんと、勘弁してくれよなあ。おまえらが出なけりゃ、わたしはなんのために無理に日程を調整したんだよ……」


 いや、そもそも寧々が美雪ちゃんとか眠子を取ったのが原因だろ。


 そんなことを話していたとき、携帯が震えた。


『あ、牧野さんですか?』


「はい」


『ソロの子が見つかったんで、顔合わせに来てください』


 おれは携帯を切ると、立ち上がった。


「ソロのハンターがいたらしい。ちょっと顔見てくる」


「あ、わたしも行くわ」


 おれと姫乃さんは店を出ると、再びテントのほうへと戻った。

 企業のロゴが入ったジャンバーを来たお姉さんに声をかける。


「あの、さっき電話もらった牧野です」


「あ、お待ちしてました。こちらへどうぞ」


 そう言って、テントの裏のほうへと案内される。


「ちょっと若い子ですけど、大丈夫ですか?」


「若いって?」


「見た感じ、高校生くらいですかねえ。年齢が少し離れますけど、どうですか?」


「いえ、それは問題ありませんけど……」


 試合のほうは、おれがサポートすればいい。

 まあ、性格に難があれば考えさせてもらうけど。


「あ、そこに座っている子です」


 彼女が指した先に、ひとりの少女のうしろ姿があった。

 長い黒髪に、どこか凛と落ち着いた雰囲気を漂わせている。


「牧野と言います。よろしく……」


 おれが自己紹介をしようとしたとき、ふと彼女が振り返った。



「――なんじゃ。また、おまえさんか」



 え?


 その瞳が、おれを映した。


 ――この声、どこかで。


「つくづく縁があるのう、異界の戦士よ」


 そう言って、少女はにっと笑った。



 ――*――



※お知らせ※

 明日より『美人上司とダンジョンに潜るのは残業ですか?』発売カウントダウン番外編を掲載します

 〈書籍版〉の物語の前日譚、つまり牧野と黒木主任の出会いの物語ですね

 本編では描かれないエピソードですので、ぜひ書籍版と併せてお楽しみください

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