7-2.高難易度ダンジョン


「てりゃあああああああああああああああ」


 主任が雄叫びとともに、大きなネズミ型モンスターを一刀両断にした。

 新しいHOUNDの大剣も絶好調だ。


「なによ。高難易度ダンジョンって聞いてたけど、大したことないのね」


 そう言いながら、ふうっと額の汗を拭う。


「……大丈夫ですか?」


「なによ。見てわからない?」


 言葉に棘があるのは仕方ないにしても、これはあまりいい傾向ではない。

 でも、さっきから説明しようとしても聞いてくれないしなあ。


「最初はびっくりしたけど、こんなダンジョンもあるのね」


 おれは周囲を見回した。


 簡単に言えば、山岳地帯だ。

 おれたちはさっきから、この岩場をひたすら奥へと進んでいた。



 ――ダンジョン『小池屋』。



 ここは『KAWASHIMA』のような縦型ではなく、横に探索エリアを伸ばしていくダンジョンだ。

 向こうにはモンスターの上下関係はないが、こちらはエリアボスと呼ばれる大型モンスターが領地を治めている。

 ハンターはそれを渡り歩いていくのだ。


 ここが人気の理由の一つ。

 それは各エリアごとのモンスターのレベルが一定であること。

 そのため『未踏破エリア』に入らなければ、飛び抜けて強いモンスターに出会うことは少ない。


 しかし、大きな危険がふたつある。


 そのひとつが――。


「……あら。寧々さんは?」


「あぁ、あいつは少し先を行ってます。ここはモンスターの生息地が変わりやすいので、ハッカーが異変はないか調べるのが基本なんです」


「ハッカーって、パソコンの?」


「あ、言葉の由来はそれなんですけど。ハンターで言うハッカーというのは、探索とか索敵をメインにする支援職のことです。あいつは小さ、……小柄なもので、あまり前衛で戦うことはしません」


「ふぅん。殺戮マシーンとか言うから、もっと目立つ感じなのかと思ってた」


「……それは、まあ、すぐわかりますよ」


 と、岩の上に黄色い札が貼ってあるのに気づいた。

 同時に、そこから先は岩石の色合いが変わっている。


「主任。気をつけてください」


「え?」


 主任が一歩、踏み出したときだった。



 ――ビュオオオオオオオオオオオオオオオオ。



 突然、まるで冬の北海のような冷たい風が吹きつけてきた。


「きゃあああああああああああああああああああ」


 主任が慌ててこっちに転がってきた。


「な、なになに!? こっちは暑いくらいなのに……」


 恐る恐る、さっきの場所に手を伸ばした。


「つ、冷たい!」


 おれは寧々が残した札に触れた。

 すると、それは塵になって消滅する。

 おれたちがここに到達したことが、寧々にも伝わったはずだ。


「ここからは、次のエリアです」


 これが、このダンジョンのふたつめの危険だ。


 このダンジョンの属性は『熱』。

 つまり気温の変化が激しいダンジョンなのだ。

 真夏のようなエリアがあれば、その隣にはまるで真冬のようなエリアもある。

 モンスターもまた、それに合わせて多種多様の生態系を持っている。


 正直に言って、モンスターのレベルは『KAWASHIMA』よりも低いくらいだ。

 しかし環境の変化に適応できずに、命の危機に陥るハンターはあとを絶たない。


 モンスターが強いのではなく、ハンターが本来の力を発揮できない。

 それが、『小池屋』が高難易度ダンジョンといわれる所以でもある。


「だから、その重武装は向かないって言おうとしたのに……」


 主任はむっとした。


「なによ。ちゃんと進めるわ。舐めないでちょうだい」


 そう言って、ずんずん進んでいった。


 ……あぁ、もう。

 本当に死んじゃうぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る